one summer day



燦々と輝く太陽の下で、その太陽に負けじと声を張り上げている蝉の音と、風が通り過ぎていく音がBGM。

庭の木々と草花の香りがこの場の平和を告げていた。

動物たちも其処此処で微睡んでいる。




マドカは車を出してもらって買い物に行った。

「士度さん、午後は絶対にお家にいて下さいね。」

笑顔でそういい残して出掛けて行った。

今日は丸一日予定が無い士度は、とりあえずHONKY TONKに向かったが、

いつもの扉の前には「CLOSE」の札が。

珍しいこともあるもんだ。

仕方が無く手持ち無沙汰に近所の公園を散歩して、適当に芝生に寝転びながら、そこら辺のカラスや鳩と世間話をして・・・・

木蔭の熱も上がってきた頃に、士度は何とはなしに、そのまま真っ直ぐ音羽邸に戻ってきたのだった。



そして今は、その庭で一番風通しが良い特等席で、ライオンを枕にして、士度も微睡みの中にいた。

すると不意に・・・小鳥が士度の髪の毛を引っ張った。

・・・何だ?と眠い目を擦りながらその小さな友達に問うと、鼻を掠めたのは慣れた髪油の匂い。

背後のライオンが顔を上げた。そして、徐に圧し掛かってきた相手に、顔を歪めた。


「お邪魔しちゃったかな?」


ライオンの背中越しに、士度の顔を覗き込んできたのは、長く綺麗な黒髪の知った顔。


「・・・花月?どうしたんだ?」


士度の問いに、花月は一瞬“おや?”という顔をした。

しかしすぐさま気を取り直して、訪問の目的を告げる。


「午後のお茶会にマドカさんからお招きを受けたんだよ。聞いてなかった?」


「・・・・いや。そーいえば、午後は家に居ろとか何とか言っていたが・・・」


少し怪訝そうな顔をする士度に、花月はクスリと笑みを漏らすと、

ライオンを飛び越えて士度の隣に腰を降ろし、持っていた小さな紙袋を士度の目の前に差し出した。


「せっかくだから、新しく手に入れたお香、持ってきたんだ。ちょっと匂いを嗅いでみてくれる?」


士度が紙袋から和紙の包みを取り出して開けてみると、赤と金の塗りのケースの中に、

濃い紫色をしたスティック状の香が20本近く納まっていた。

士度はそのうちの一本を手に取り、その香りを確かめてみる。

心を落ち着かせるような、涼やかな匂いが心地良かった。


「いいんじゃねぇか?マドカが好きそうな匂いだ。」


「水辺の香りをイメージしているんだ。“蛍”っていう香なんだよ。・・・・士度もこの香り、好きかな?」


「俺か?嫌いじゃねぇぜ。・・・・むしろ好きな方かもな。――ッオイ!食いもんじゃねぇ!」


横から興味深そうに香の匂いを嗅いでいたボーダーがいきなり大口を開けたので、

士度はそのケースとお香を守るべく頭上に掲げながら、周りに寄ってきた動物達に食べ物では無いことを説き始めた。

そんな友人の姿を花月は眼を細めながら見つめていた。


「気に入ってくれたみたいで、良かった・・・・」


花月がそう呟くと、


「・・・・ありがとな。」


少し照れたような声が、風と共に耳を掠めた。

「どういたしまして。」

花月が笑顔でそう返した声に、別の声が重なってきた。


「あれ、絃の花月君も来てたんだ?こんにちは、士度君。」


新しい来客の肘が容赦なく背中に当たってきたので、ライオンは再び顔を歪めた。

唐突に現れた雪彦の手の中には、色とりどりの花々が納まった花束が握られている。


「よぉ・・・お前も茶会に呼ばれたのか?」


士度の言葉に雪彦も一瞬不思議そうな顔をする。


「茶会?・・・あ、あぁ、そうなんだ。それでね、せっかくお呼ばれされたんだから、ちょっとした手土産でもって思ってね・・・」


はい、これ・・・・手に持っていた花束を、奇羅々が士度に手渡した。


「花を持って行こうって決めたのはいいんだけれど・・・・何の花にするのか、なかなか決まらなくって。」

「恥ずかしい話だが、結局候補に上がった花を全て持ってきてしまったのだよ・・・」


緋影が妹に続いて苦笑しながら告げた。


「檜扇は時貞、蛍袋は奇羅々、夏椿はそのまま椿から、鷺草は雪彦、葵は緋影、車百合は右狂、露草は・・・俺が選んだ。」


適当に飾ってくれ・・・・夏彦が抑揚無く説明を付け足した。


「悪ぃな・・・しかし、それぞれ・・・・お前たち“らしい”花を選んだもんだな。」


目の前を彩る花の種類を目で追うことで反芻しながら、士度の口元が綻んだ。


「・・・・“洋物”よりも“和物”を好むという点では我々と嗜好が一致するから選ぶのには難儀しなかったぞ。」


時貞が檜扇に止まった小虫を払いながら言った。


「・・・?マドカはどっちかっていうと、洋物が好きなんじゃねぇのか?」


士度が赤青白の花々から視線を上げて目を瞬かせた。


「はぁ?なんで俺らがオメェの惚れた女にソイツをやんなきゃなんねぇんだよ?」


右狂が馬鹿じゃねぇか?と言った顔で士度を見た。


「・・・その花は音羽マドカの為じゃなくてだな・・・士度、お前まさか今日の茶会が何の・・・・」


椿が面倒くさそうに口を開いたその時・・・・


「あらぁ!皆さん、お揃いで!」


ヘヴンがご機嫌宜しく庭に入ってきた。

その手には大きな一升瓶が。


「仲介屋か。・・・・お前、何持ってんだ?」

「ヘヴン殿!それは、幻の名酒・・・」


「あら、弥勒の・・・緋影さんでしたっけ?そう、幻の名酒“十四代 双虹”!士度君、今日は一緒に美酒に酔ってもらうわよ〜v」

「日本酒って・・・茶会だぞ、仲介屋?」


士度が呆れたようにヘヴンに告げた。


「お茶会?・・・・へぇ〜・・・まぁ、いいわ。と・に・か・く!今日はこの味の感想を君から聞くまで帰らないんだから!」


手に入れるのに苦労したし、値段もそれなりにしたのよ〜v―― 一升瓶に頬擦りをしながらそういうヘヴンに士度はとりあえず礼を述べた。

日本酒は、むしろ好物だ。

ヘヴンから引き続き日本酒講義を聴いているとき、「士度は〜ん!」と聞きなれた元気な声が飛んできた。


「笑師・・・久し振りだな。」


駆けて来た笑師の手は荷物で一杯だ。そんな笑師は身軽にライオンを飛び越すと、花月とは反対側の士度の隣に腰を降ろした。

そして手にしていたものを次々と士度の手に押し付ける。


「これは朔羅はんが焼いたクッキーや!味見させてもーたけど、甘さ控え目で美味しかったで〜!
そんでこっちは十兵衛はんと雨流はんからの特上抹茶!秘蔵モンやって、言っとったで?
あ、こっちはマクベスはんからビターチョコ!士度はんにもたまには糖分が必要やとかなんとか。
で、これはワイからや!
花月はんからお香持って行くって聞いてピンときてな!
楼蘭王国の香炉や。古いもんやけれど大事に仕舞っといたから全然大丈夫と思うわ。
金細工やけどあんま派手やないから、士度はんが使ってもOKやろ?」


どうや?―― そう言いながら笑師が最後に士度の掌に載せた小さな香炉は、象や蓮の細かな金細工が施された
御堂を模したものだった。御堂の中に香台、御堂の頂に香立てがついていた。
金一色だがどこか気品が漂う上物だ。


「・・・笑師。いや、ありがたいけどな・・・コレ、大事なもんなんだろ?それを俺なんかに簡単にやっちまって、いいのか?」


香炉を眺めながら躊躇いがちに訊いてくる士度に、笑師は首を傾げた。


「何言うとるんや?士度はんやからあげるんやで?それに今日は・・・・」


「士度〜!!あ、皆も来てたんだね〜♪」


不意に、銀次の明るい声が庭に響いた。

その後ろからは煙草をふかしながら蛮が渋々とやってくる。

銀次が手に持った網には大きなスイカが二個。


「銀次は〜ん!何や美味そうなモン持ってきはったな〜v」


手伝うで〜v笑師は再びライオンを飛び越して銀次の元へと駆けて行った。

そして蛮の直ぐ後ろから夏実が朝顔を抱え、レナがケーキを乗せたトレイを持って、波児が挽き立ての豆を入れた袋とポットを持ってやってきた。

そして、最後に両手一杯に向日葵を抱えたマドカが・・・。


「・・・マドカ!?お前、何やってるんだ・・・・」


士度は香と香炉を手にしてマドカの元へ駆け寄った。

レトリバーが士度の指示を受け、弥勒の花束を銜えて主人の後に続いた。

尾長猿や他の犬たちがクッキーや抹茶やチョコの缶をそれぞれ運び、
いつの間にか奇麗にセッティングされ、料理も並んでいるティーテーブルの上にちょこんと置く。

自分の顔よりも大きな向日葵の間から、マドカがその清楚な顔を表に出した。

そして開口一番、その向日葵と同じような微笑みの下で告げられた言葉は・・・


「士度さん、お誕生日おめでとうございます!」


そしてその太陽の花の花束は士度の元へ・・・・


「・・・・え?」


反射的に花束を受け取った士度の思考は一瞬停滞。

そんな彼の様子を窺って、マドカはクスリと笑みを漏らした。


「あら、やっぱり。」


他の来客達からも忍び笑いやら溜息やら。


「士度らしいよね。」

「お茶会だなんて・・・最初に言ったのは、やっぱり花月君?」

「ホント、このプレゼントの山でも気がつかないなんて・・・」

「え?士度はん、忘れてたんかいな!?」

「え〜?僕等は一週間前に招待状貰ったよね、蛮ちゃん?」

「・・・・相変わらず自分の事に関しては鈍いっていうか・・・だからオメーはいつまでたっても猿マワシなんだよ!」

「今日はNo.1ブルマンを持ってきたからさ。たまには外で俺の珈琲を味わってみてよ。」

「私達さっきまでマドカさんとHONKY TONKで、この玉葱ケーキ作っていたんですよ!ほら、綺麗な狐色でしょ?」

「何でも思い出深いケーキなんですって?士度さん、何の思い出ですか??マドカさんったら、教えてくれないんです〜!」



友人たちから矢継ぎ早に繰り出される言葉の数々に、士度は二の句が告げられない。

あぁ、さっきのマドカの言葉を聞くまで、すっかり忘れていた・・・そういえば、今日は俺の・・・・・。



マドカが士度の服の裾を握った。そしてその小さな額を彼の肩にコツンとあて、もう一度・・・・


「士度さん、お誕生日おめでとうございます。」


彼女を見下ろした士度は、まだ少し狐につままれたような顔をしていた。


「HappyBirthday!士度!!」

「「おめでとーございまぁ〜すvv」」

パンッ!パパンッ!!

突然、銀次と夏実とレナが祝いの言葉を述べながらクラッカーを鳴らしたものだから、
庭の鳥たちは一斉に飛び立ち半ばパニック、動物たちも縦横無尽に庭を駆け出したりして、場は一気に騒がしくなった。


「〜〜!!この、馬鹿銀次!!」「あわわわわ!!蛮ちゃん、皆ぁ、ごめんよぉ!!」

「キャア!か、カラスが私のペンダント・・・ちょっと士度君!何とかしなさいよ!」

「痛タタタ!!ね、髪引っ張るのだけはヤメテよ・・・・!」

「あ、そのケーキはまだ食べちゃ駄目ぇ!!」

「このスイカは我が剛剣“小鉄”で華麗に捌いてみせるぞ。篤と見よ、冬木士度!」

「さて、そろそろ珈琲の準備でもしようかね、夏実ちゃん?」

「はい、マスターv」






士度は視線を向日葵に落として誰にともなくポツリと呟いた。


「あぁ、ありがとな・・・・」


士度の肩口で、マドカの顔が喜びに染まった。

士度の珍しい笑顔の気配を感じたから。

向日葵のような彼の、滅多にお目にかかれない太陽のような笑顔。


来客達も、黄色い花弁の影で隠れたその口元こそは見ることはできなかったが、
彼のその穏やかな瞳の中に、その心情を映し見ることができた。



さあ、宴を始めようか?


君が生まれた日を祝福する為に。


そして、もう一度・・・・





“誕生日、おめでとう!”







Fin.




8月12日は士度のお誕生日ということで・・・やや遅ればせながらBirthdayフリーSSを掲載。
復帰後初SSでしかも突発ヘタレSSになってしまいましたが(涙)
こんな代物でも宜しければ、本文はお持ち帰り自由でございます☆(いらないっすか;)
とにかく、士度の誕生日祝いを何かせずにはいられなかったわけでして。
本当はもっともっと盛大に祝いたいのですが・・・・今年は仕事明けで体調グデングデン故に泣く泣くコレまで;
(ハピバメインは“最初の夜”だと思ってやって下さいませ;)

兎に角・・・・HappyBirthday士度☆君という存在に踊らされている管理人より愛を込めてv



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