◆ Lion-girl & Rabitt-boy ◆



「♪スパゲッティ、ハンバ〜グ、オムライスの上には旗を立てて〜♪」


学校からの帰り道、夕陽に向かって琴音が機嫌よく鼻歌を歌っている。


「・・・まるっきりガキのメニューじゃねぇか・・・」


隣を歩いている士音は呆れ顔だ。


「いーじゃない!パパとママがいない時にしか、こんな献立頼めないもの・・・!それに・・・」


琴音がクルリと士音の方へ向き直った。


「昨日、コックさんに『ご夕食は何がいいですか?』って訊かれて、・・・“ウニ御飯、生牡蠣、エスカルゴ”・・・って答えた士音ちゃんよりはマシよ!!」

「――!!ウルセーな!あの味がわかんねーなんて、どうかしているぞ!!?」

「いつだったかパパ、“足が無い動物はたいてい大人の味”だって言ってたもん・・・!士音ちゃんまだ子供のくせに、大人ぶっちゃって・・・!」


琴音が士音をからかうように覗き込んできた。


「〜!!別にぶってねぇよ!美味いんだからしょーがねぇだろ!?」


士音が手にしていた鞄を振り上げた。
琴音は「キャーーv」と言いながら、お約束通りそれをヒラリと避ける。
士音が舌打ちをしながらもう一度、鞄を振り上げようとしたとき、何かを察したようにその手がピタリ・・・と止まった。
前方を駆けて逃げていた琴音も士音の様子に気がつき、“どうしたの・・・?”と首を傾げる。しかし・・・・


「――!!士音ちゃん!走らなきゃ!!」

「わかってるよっ!!」


双子が弾かれたように脱兎の如く駆け出すと、


「〜〜!!ちょっと!待ちなさいよっっ!!」


と、二人を呼び止める声が遠くから聴こえてきた。


「・・・・姉さん!待ってよ・・・・!」


控え目な感じの声が、後に続く。
双子はそんな声にはお構い無しに、一目散に我が家を目指した。


「〜〜!!?なんで平日のこんな時間に奴等が新宿にいるんだよ!??」


全力で走りながら士音は思いっきり眉を顰めた。


「知らないわよ!!――!!うわぁ!二人とも足、速い・・・・!!」


後ろを振り向いた琴音が二人の追跡者を見て感嘆の声を上げる。


「馬鹿!感心している場合かよ!!――あっ、柚木さん・・・!!」


士音は自宅の門を磨いているメイドの名を呼んだ。


「あら、坊ちゃま、お嬢様、お帰りなさいませ・・・――!?」

「早く!!門閉めて!!」


眼鏡のメイドを門の内側に押し込みながら士音が叫んだ。
わけがわからず戸惑いながらも、鉄門の閂を掛けたメイドの耳に、別の声が聞こえた・・・・


「――甘い!シュン、ハンド!!」

「えぇ!?」


双子が逃げて来た道を駆けてきた栗色の髪に褐色の肌の女の子が、後ろから来た男の子の手を踏み台にして飛び上がった。
その身体は身軽に門の上を舞い、冬木邸の敷地に入らんとしている。


「――なッ!?馬鹿かえで!!そこを飛び越えたら――」


“ビ―――――!!”


士音の叫び声に重なるようにして、警報器のけたたましい音が冬木邸に木霊した・・・・。










「・・・・今回で三回目です。いい加減、“普通に” 門からお越し下さい・・・・楓様、峻様。」


額にくっきりと青筋を浮かべながらも冷静な口調でそう諭す執事の耳に届いたのは、


「はーーい!」

という元気な声と、

「す、すみません・・・・今度からは気をつけます・・・・」

という心底申し訳なさそうな声。

これらの台詞を聞いたのも三度目だ・・・・。
――しかし彼らは、士度様が懇意にされている春木様、秋木様の御息男、御息女。
ウチの坊ちゃま、お嬢様にとってはイトコのような存在だ。
いくら毎度のトラブルメーカーとはいえ、あまりキツイ事は言えない・・・。――


そう自分に言い聞かせながら、執事の木佐は溜息混じりに「・・・・それでは、ごゆっくりどうぞ。」と、お決まりの台詞を告げると、重く踵を返した。
エントランスに残された子供たちはほっと肩の力を抜く。


「・・・・今、執事さん、『早く帰れ!』って言ったわよね!?」

「・・・話が早くて助かるよ。」


楓の苦情に、士音はそっけなく答えた。全く、こいつ等が来ると毎回ろくなことがない。


「あ・・・こ、琴音ちゃん、お土産持ってきたんだ・・・・」


姉とは対照的に漆黒の髪に白く透き通るような肌をした弟の峻が、背負っていたリュックに手を掛けた。


「――!!お、お土産なら・・・士音ちゃんに渡してね・・・!」


峻の言葉に琴音は顔を顰めると、サッと士音の後ろに隠れた。


「え・・・?琴音ちゃん、人参も嫌い・・・?」


そう言いながら峻は、取り出した真っ赤な人参の束を“はい”と士音に渡した。

(そーじゃねぇだろ・・・・)

心の中で峻に突っ込みを入れながらも、“ありがと”と短く礼を述べると士音は人参を受け取った。
――ちゃんと“普通の”人参だ。そして士音は今までの彼らの“お土産”を思い返してみた・・・・。

最初に来たとき、峻は
「来る途中、走っていたからお土産に丁度いいかなって・・・・」
そう言いながら山で狩ってきた“ウサギ”をマドカに手渡し、彼女を絶句させた。
(それでもそのウサギはその晩の美味しいシチューになった。)
次に来たときは
「今年は量も獲れたし、甘く美味しくできたから・・・」
そう言いながら竹の葉で包んだ物体を琴音に渡した。
木の実のお菓子だろう・・・そう思い嬉々として包みをあけた甘いもの好きの琴音の眼に飛び込んできたのは・・・
“イナゴの佃煮”――エントランスに悲鳴が木霊した。
(結局そのイナゴを食べたのは士度と士音と庭にいる動物たちだけだった)

三度目にして、やっと普通のお土産だ・・・おっと安心するにはまだ早い。


「士音!カヤの実の砂糖菓子を作ってきたの・・・!美味しくできたと思うわ!」

(こいつ・・・!俺が甘いモンが苦手だって何度言えばわかるんだ!)


それでもとりあえず、「ありがと・・・」と言いながら、士音は蓮の葉の包みを受け取る。

前回楓はマタタビケーキを持ってきた。嫌な予感がして一応父親に確かめてみたら、「マタタビで塩漬けや酒は造るが・・・ケーキなんてもっての他だ・・・!」と言われてしまった。けれどせっかく作ってくれたんだから、と親切心で口にしてみたら・・・やっぱり食える代物ではなかった。仕方がないから庭に居る猫やライオンにやった。奴等は別の意味で喜んでいた。
その前はクルミのクッキー・・・・もどき。士音にはクルミの塊にしか見えなかった。何より砂糖をまぶしすぎだ。北嶋といコイツといい・・・本物のクッキーを見たことないんじゃないか?
今回も食えるものか一応誰かに確認をとった方がよさそうだ。

(私も一緒に味見してあげるから・・・・)

琴音が小さな声で耳打ちをしてきた。


「あ、そうだ、士音。これ、ありがとう。面白かったよ。また書斎から本を借りていっていいかな・・・?」


峻はもう一度リュックに手をいれると、分厚いハードカバーの本を取り出した。表題は『我輩は猫である』。
“猫”の文字に琴音が反応した。


「何、それ!?猫のお話?最後はハッピーエンド?」


琴音は眼を輝かせながら峻に訊いてくる。


「え・・・でも、いきなり最後を聞いたら面白くないよ、琴音ちゃん・・・・」


琴音に見つめられ、赤面しながら峻は答える。しかし「いいわよ・・・!ねぇ、どうなの!?」と琴音はいたってマイペース。


「最後、猫は溺れて死んじゃうんだ・・・でも・・・・」

「え〜!!死んじゃうの!?じゃあ、琴音、その本読まない!」 「え・・・でも猫は飼い主の家でいろいろな人に出会って観察して自分の人生・・・じゃないや、“猫生”を・・・・」


プイッとソッポを向いた琴音に懇切丁寧に説明しようとする峻の襟首を士音は掴んで、「無駄無駄・・・」と首を振った。
峻もガックリと項垂れる。そんな峻を少し気の毒に思いながら、士音は琴音に人参と包みを手渡すと、本のページをパラパラと捲った。


「・・・・なんか、難しそうだよな・・・・お前まだ五年生なのに、よくこんな本が読めるよな。」


――六年生の楓だって、こんな本読まないだろ?――そう言いながら士音は一つ年上の峻に尊敬の眼差しを向けた。


「そんな・・・・士音だって四年生だけど、読んでいる本は僕とあんまり変わらないじゃないか・・・」


――それに姉さんは元々、本をあまり読まないし・・・――小鹿のように愛らしい瞳を瞬かせながら、峻ははにかんだ。


「でも、それで今回チチと大喧嘩したのよね〜!」


楓は峻の肩に両手をかけながら、士音と琴音に向かってウィンクをした。峻は顔を更に赤らめながら俯いてしまう。


「え・・・?ってことは、“また”家出!!?」

「・・・この時間に着くってことは・・・・学校サボるほどの大喧嘩したってことか!?」


双子の頓狂な声が重なった。この姉弟が住んでいるところは・・・新宿ここから電車で二時間、バスでさらに二時間、徒歩で一時間のところだ。小学生には結構な長旅、来たら絶対にお泊りだ。
楓は緩くウェーブが掛かった長い髪を揺らしながらクスクスと笑っている。


「今日は創立記念日で学校はお休みだったのよ。だから父とハハが午後狩に行ったときに黙って抜け出して来ちゃった。」


――それに、士音にも会いたかったし!――そう言いながら急に飛びついてきた楓を士音はヒラリ・・・と避けた。
も〜!!相変わらず固いんだから!!――それでもあまりショックを受けた風もなく、楓は士音の腕に自分の腕を絡める。
眉を寄せながらも士音は好きにさせておいた。


「でも、本が原因で大喧嘩なんて・・・いったいどうしたの?」


琴音が大きな眼をパチパチさせながら覗き込んできたので、峻は顔を真っ赤にしながら後ずさりをする。


「え・・・と・・・そのことで士度おじさんに相談があったんだけど・・・・今日はいないの?」


峻は取り繕うようにキョロキョロと辺りを見回した。


「パパは昨日からママのコンサートについて行っているの。ママ、山奥のコンサート会場で外国から来た人と一緒に演奏するんだって。で、そこの会場の近くに素敵な温泉旅館があるから気分転換に一泊してくるんだって。今夜遅くに帰ってくるのよ。パパと一緒なのが嬉しいのか、ママったら昨日の朝、満面の笑顔でお出掛けしていったんだから・・・」

「あら、あんたたち置いていかれちゃったの・・・!?」


楓が心底お気の毒・・・といった表情をしながら言った。


「馬鹿、昨日も今日も平日だろ?俺ら学校があるんだよ。それに週末俺らと過ごす為に、二人とも一泊だけで帰ってきてくれるんだから・・・」

「ふ〜ん・・・・相変わらず士度おじさんとマドカさんはラヴラヴなのね!それに比べウチの父と母ときたら・・・・!」


楓が腕を組んでふくれっつらをした。


「劉邦おじさんと薫流さんって仲が悪いの?」とすかさず琴音が聞けば、


「・・・・う〜ん、悪いことはないんだけど・・・母に父が振り回されているっていうか・・・ラヴラヴって文字が似合わないっていうか・・・・」


峻がポリポリと頭を掻きながら困った顔をした。「・・・・あ〜、何となくわかるような気がする・・・」士音は薫流の奔放さと、いつもそれに肩を落としている劉邦の様子を思い出した。


「・・・・とにかく!お前ら、今日は温室のガラスを割るのも、花瓶を壊すのも、庭の動物達やつらの毛を刈るのも無しだからな!!」

「え〜!?じゃあ今日は組み手も鬼ごっこもトリマーの練習もダメなの!?」

「「駄目!!」」

楓の苦言に琴音と峻の声が重なった。
普通だったら何でもない遊びが、楓の機動力が伴うと執事の木佐さんの雷の原動力となって、いつも双子と峻はとばっちりを食うのだ。

「絶対、駄目だからな!お前がこのあいだ『トリマーごっこ』とか言って動物達やつらの毛をやたらめったら刈ったもんだから、今日お前らが来てもあいつ等怯えて顔も出さねぇじゃねぇか!!あの後、父さんと一緒にあいつ等宥めるの大変だったんだからな!!」

憮然とする楓に士音は少し声を荒げると、階段を駆け上がった。


「ちょっと!じゃあ、今日は何をするのよ!?」


楓が慌てて士音を追いかけ、琴音と峻は“やれやれ・・・・”と後に続いた。


「・・・・とりあえず、二階で峻の話をじっくり聞く。後は・・・その時になったら考える!」


相変わらず気が短いのね・・・――小さな溜息を吐きながら不満そうにそう呟く楓に、((それは姉さん/楓ちゃん相手だからだと思うな・・・))と峻と琴音は心の中で突っ込みを入れた。









「ふーん・・・ようするに修行が嫌で劉邦おじさんと喧嘩したあげく、家出してきたのね・・・・」


猫のレオを弄りながら琴音が呆れたように言った。


「べ、別に修行が嫌なわけじゃないんだ・・・・ただ、父は『俺の息子なら強くなれ!』の一点張りで・・・。僕は将来、学者になるから別に強くなる必要はないって言ったら、拳骨が飛んできて・・・・それで僕も頭にきてさ。・・・・士音はどうして修行するの?」

パズルのピースを探しながら、峻が訊ねた。


「俺は・・・・父さんみたいに、強くなりたいから。そして父さんや母さんや琴音を、守れる人間になりたい・・・・」


小さな蛇を腕の上で遊ばせながら、士音は呟いた。その真摯な瞳に峻の心は揺さぶられる。


「ねぇ・・・・私は数に入っていないの?」


蛇の尻尾をクルクルとと弄びながら士音の横で寝そべっている楓が、彼を見上げてきた。


「・・・お前は、十分強いだろ。」


「士度おじさんだって、十分すぎるほど強いじゃない?」


いつになく真面目な顔をして訊いてくる楓に、士音は少し面食らった。いつも喜怒哀楽の表情がうるさいほど豊かなコイツでも、こんな顔ができるんだ・・・・楓の意外な一面に小さな感慨を覚えながらも士音は続ける。


「俺はまだ・・・父さんに守ってもらっている。だから将来、その分だけ父さんに恩返しができるように、今のうちから努力をしておくんだ。それに俺は・・・・父さんの息子として、自分に誇りを持ちたいからな・・・。魔里人としても・・・」


だから強くなるんだ――そう言う士音の眼には強い決意が宿っていた。


「・・・・だから私、士音ちゃんのこと、好きよ。」


そんな士音を誇らしげに見つめながら、琴音はサラリと言ってのけた。
<ボクモ〜!>琴音の腕の中で、レオが相槌を打つ。
“いってろよ・・・”――そう言いながらも士音は少し嬉しそうだ。
楓は自分の台詞を盗られたような気がして、少し落ち着かなかった。


「僕には・・・・魔里人の誇りとか、守りたいとか・・・・そんな気持ちがまだ十分じゃないのかな・・・・」


峻はパズルのピースを戯れに放りながら呟く。


「峻には守ってあげたい人、いないの?」


あ、ここ、このピースよね・・・――琴音がパズルの一角を埋めながら訊いてくる。


「僕の家族は“この”姉さんに、あの父にあの母だから・・・・“守る”っていうより・・・う〜ん・・・そ、それよりさ、琴音ちゃんはどんな人に守ってもらいたい・・・?」


峻の見え見えの質問に、士音と楓は笑いを堪えた。一方琴音は半ばパズルに夢中になっているので、峻が意図することなど感知しない。


「パパや士音ちゃんみたいな人よ。優しくて・・・強くなくちゃダメ。」


三分の二ほど仕上がっているパズルと睨めっこしながら琴音は答えた。
そんな琴音の答えに、峻の瞳は逡巡するかのように揺れた。


「ねぇ、峻。前にパパが言っていたんだけど、強いってことは・・・・」


琴音がピースを探しながら何気なく呟いた言葉に峻は身を乗り出した。
しかし、彼女の言葉は夕食の時間を告げるメイドの声に遮られ、最後まで峻の耳には届かなかった。
その声に素早く反応した琴音と楓は、兄と弟を置いて一目散にダイニング・ルームを目指す。
峻が問いかけるように士音を見ると、
「・・・後でウチの父さんに聞いてみろよ。」
蛇の子をゲージに返しながら、士音は小さく笑った。
「昨日は足の無い食べ物ばかりだったから、今日来たアンタ達はラッキーよv」
琴音が楓にそんなことを言っていた。
















「そうか、峻は学者になりたいのか。」


ティー・ルームで執事からウィスキー・カクテルを受け取りながら士度はタイを緩めた。
マドカも士度の隣に座ってハーブティーの香りを楽しんでいる。


―それは劉邦も心中穏やかじゃないだろうな・・・・―そういいながら士度は苦笑した。


「・・・・父が言うような『強さ』はやっぱり僕にも必要なのかな、士度おじさん・・・・」


向かいのソファに行儀良く座りながら峻は頭を垂れた。


「峻・・・・『強さ』は別に腕っ節のことばかりを指す訳じゃない。」


カラン・・・と士度が手にしているグラスが音をたてる。


「お前が目指したい目標、お前が守りたい者・・・・お前の“心”が強くなければ、皆届かないものになってしまうぞ?」


士度の言葉に弾かれたようにして峻は面を上げた。穏やかな顔が彼を見つめていた。


「峻、強くなれ。お前自身だけの為ではなく・・・・誰かを、何かを守る為に。」


士度は峻から目を離し、自分の隣にいるマドカを見下ろした。
マドカは彼の視線に答えるように、優しく夫に微笑みかける。
そんな二人の姿を見た峻の脳裏には一瞬、琴音の笑顔が過ぎった。


「お前が揺るぎない心で望めば・・・・劉邦はきっと、お前に本当の『強さ』を教えてくれるさ。」


――それはきっと・・・・これからのお前達に必要なモノだろうよ・・・――


士度はもう一度、峻の瞳を見据えながら穏やかに言った。
琴音や士音が何故、この“父親”に憧れるのか・・・・峻は少し分かったような気がした。













「父!俺、強くなるよ!!」

翌日の夕方、山奥に佇む家に帰るなり峻は開口一番、劉邦に告げた。


「――!!そうか!やっとその気になったか、馬鹿息子よ!!」


劉邦は嬉々として両手を広げる。


「うん!そして士度おじさんみたいに強くて優しい人になって・・・・琴音ちゃんを守れる男になるんだ!」

「〜〜!!おいっ!!お前・・・・!!」 「そうか、それは良いことだな。」


峻が続けた言葉に絶句する劉邦を無視して、薫流は笑顔で息子に同意した。


「母!これ、マドカさんから貰ったお土産の温泉饅頭よ・・・!早速食べてみましょv」


楓は父と弟の会話をまるで無視している。


「そうか、茶でもいれよう。士度は元気だったか?」

「うん!おじさんが父と母に宜しくって!!」

「峻!!お前、目標にする対象が明らかに違うだろう!?」

「だって琴音ちゃんは士度おじさんみたいな人に守ってもらいたいって言ったんだ!だから僕は父の元で修行を積んで、心身ともに強くなって・・・士度おじさんのように、大切な人を守れる人になりたい!!」

「〜〜!!だからなんで俺の元で修行して、わざわざ士度のようにならなきゃなんねぇんだ!?」

「だから、峻は琴音に“守ってもらいたい”って思われたいのよ・・・・さっきから言ってるじゃない?父、相変わらず物分りが悪いわね・・・」

「うるさいぞ、劉邦。息子が良い目標を見つけたのだから喜ぶべきだ。」

良いことを学んできたではないか――息子の頭を撫でながら薫流は言った。
やがて一家の大黒柱を無視してお茶を片手に談笑しながら温泉饅頭に手をつけた妻と娘と息子の目には、彼らの言葉にすっかり打ちひしがれてしまった夫や父の姿など、もはや入っていなかった。







「パズル・・・・最後まで完成できなかったね、姉さん。」


「・・・・いいじゃない。次に行ったときに仕上げれば・・・・あ、でも琴音が終らせちゃってるかもね?」


「それは・・・・ないよ。だって最後のピースは・・・・」


僕が持ってるから・・・・――峻の掌で、欠片ピースが踊った。


「・・・・狡い子。また、届けに行かなきゃね・・・・」


「うん・・・・」


布団の中で楓がクスクスと笑った。
峻はピースを蝋燭にかざしてみた・・・・多分・・・・雪ダルマの鼻の部分だ。
雪の季節の初めには届けないと、飾る期間が短くなるって琴音ちゃん怒るかな・・・・。

――そんなことを考えながら、峻はその欠片を新しく借りてきた本の間に栞代わりに挟み、
蝋燭の灯りを吹き消した。









Fin.


Mondlicht/7000キリ番ゲッター、七緒様からのリクエストで、『表で双子SSで薫流の娘&息子が登場』でした。
大変お待たせしてしまい、申し訳ございません;
完全オリキャラのリクエストは弊サイト初ということで・・・少しでも七緒様のイメージ合っていれば幸いです。
劉邦×薫流Familyの設定はParallelの設定ページに少し追加しました→よろしければあわせてご覧下さいませ。
楓と峻は同じくキリリクであと一話、クリスマスorバレンタインモノで登場します☆
それからは・・・・反響次第で・・・!
七緒様、妄想のし甲斐がある素敵リクエストをどうもありがとうございました・・・!
またのチャレンジをお待ち致しております♪