◆New Year's present◆




タブの中のガラクタは・・・・・



「まとめて燃えないゴミにでも出してくれ。」




自分のもとへと還ってきた指輪を再び薬指に嵌めてもらい・・・
先程まで歓喜と感動でやっぱり喜んだり泣いたりして急がしかった振袖姿の彼女に甘えられるなかで――
居候殿は事も無げにそう言った。





「・・・・なんか、高そうな指輪も混じっていますよ?」

――ほら、これなんか・・・ルビー?――

貰っていいのかな?――泥まみれの指輪片手に目を輝かす寝坊してきた年少のメイドの手を叩きながら、
釣り目のメイドはせっせとタブ一杯のガラクタを装飾品と古銭と――本当のガラクタに選別していく。

「口ばっかり動かしていないで、手を動かしなさい!高価なモノは後で柚木さんが警察署に届けることになっているんだから・・・!」

――それより士度様は・・・・いったいどうやって一晩でこんなにも沢山の・・・・――


ガラクタを?


「あ、この黒い石の指輪もキレ・・・・――ッ痛!!」


ピシャリと鋭く手を叩く音が洗面室に木霊した。









「いいじゃないですか、チーズの一玉くらい。」


まだ一玉残っているんだし――先程酒の肴として出したチーズの切れ端を口に放り込み、
どこか満足そうな顔をしながら金髪のメイドが目の前で項垂れているコックに声をかける。


「一玉くらい・・・・?一玉35kgあったんですよ!?普通それが一晩で消えますか!?」


――しかもイタリアから直輸入した熟成48ヶ月の極上のパルミジャーノ・レッジャーノが・・・!!――


冷蔵庫の中にあった他のチーズとは格が違うんですよ・・・!!それは一玉・・・・――
情けない声を出しながら訴えるコックの声は、珈琲の補充に厨房までやってきた執事の登場で遮られる。


「先程シャンベルタンと一緒にお出ししたチーズとカナッペを士度様はお気に召されたようで・・・・」


良かったですね――執事はニッコリとコックに向かって微笑んだ。


コックは少し救われた思いがした――あまり食に対して興味がなさそうな居候殿が、自分の選んだ食材を褒めてくれることはコック冥利に尽きること。


「あぁ、そうそう・・・・“厨房のチーズをゴッソリ持って行ってしまって悪かった”とも仰っておいででしたが・・・・」


執事は珈琲をポットに移しながら首を傾げた。
ガクリとコックの頭が垂れる。
犯人は士度様か・・・・。


「確かにチーズがゴッソリ無くなっていましたが・・・士度様はパーティーでもされたのでしょうか・・・」


格が違うと言っても、冷蔵庫の中のチーズも高級なものばかり。
年末年始故――普段は大人しい居候殿も羽目を外したのか・・・・


「いえ、“鼠にやっちまった”と・・・・」


「〜〜〜!!!?」


事情を知らない執事がサラッと述べた言葉に、コックは椅子から転げ落ちそうになった。


――鼠に・・・やった・・・・?――


パーティーで美味しく召し上がるならいざ知らず。


一玉40万のチーズを鼠にやったと言うのですか!?




コックの悲鳴が居間まで届き――士度は思わず額に手をあて、彼の腕の中でマドカは思わず目を丸くした。








「どうやったら溝浚いで・・・こんなに沢山の指輪が出てくるのですか・・・?」


「さぁ・・・・新宿だからでしょうか?」


お昼過ぎ―――拾得物の応対にでた警察官は、小さな袋一杯に詰められていた指輪を確認しながら呆れ顔だ。
しかし目の前にいる美人さんは善良市民の代表でもある音羽マドカ嬢宅の使用人。
やましいことなど・・・・恐らく・・・・ない。

一方眼鏡のメイドは何食わぬ顔で書類に必要事項を書きこんでいる。

その間――数人の警察官が今は綺麗に磨かれた多種多様な指輪一つ一つの特徴を書類に書き込んでいたが――

「・・・・!?」

黒い石が嵌め込まれたリングを手に取った警官の一言で、場は一気に騒然となった。







「懸賞金が出ていたそうです。」

一昨年の年末に――日本へ旅行に来ていた英国のさる貴族の御婦人が誤って落としてしまった黒ダイヤの指輪だそうで・・・・――


「良かったじゃねぇか。」


――見つかって。――


「良かったですね。」


――その奥様には思わぬお年玉ですね・・・?――


はい、士度さん・・・・アーン♪――気恥ずかしそうな士度の気配に構う事無く、暖炉の前で二人仲良くソファに座りながら――
マドカは上機嫌に上等なチーズを士度の口へと運んでやっている。


「こちらが、その懸賞金です。」


メイドがにこやかに差し出してきた帯付きの札束に、士度は眉をハの字にした。


「別に・・・・いらねぇよ。見つけようと思って見つけた訳じゃねぇし。」


――返してきてくれ――


居候殿のその言葉に、メイドは少し困った顔をした。

「申し訳ありませんがもうすでに・・・・受け取りのサインを済ませてきてしまったので・・・」

メイドはそう言いながらもう一度、札束を士度に差し出した。

士度は不承不承ソレを受け取ったが・・・・しかし何か思いついたように、その束を再びメイドの手に戻す。


「これでチーズでも買ってくれ。」


――残りは皆で分けるといい・・・・――


そう言うと、話はこれで終わりと言わんばかりに、彼はワインを口につける。
メイドは恥ずかしげに頬を染めながら居候殿に深々と一礼をしてその場を辞した――


――やった・・・・!!〜〜痛ッ!!――


居間の扉の向こうで耳を澄ましていた人の小さな歓声と――ペチリと頭を叩かれる音がした。








「思わぬお年玉よね」

――コックさんの機嫌も持ち直したことだし――

仕事明け――
使用人達の部屋がある家屋のロビーで弾んだ声がする。


「まさかポンッとくださるなんて・・・・」


一生懸命ガラクタを選別した甲斐がありました!――なんて素敵なお正月。


「お嬢様も今日は一日――いつも以上に士度様につきっきりでしたし・・・」


それはとても幸せで――微笑ましい光景。



「あれ、そういえば木佐さんは・・・・?」


いつもなら今頃風呂から上がってくるはずの上司の姿がそこにはない。


「今日はタブに残ったモノの中から古銭だけをとりだして・・・・カタログと照合するからと・・・・」


コインの収集も趣味みたいですよ?――湯飲みを片手にした人の――眼鏡の下の目が柔らかく微笑んだ。


「・・・・・相変わらずね。」


「そんな趣味ばっかりですね・・・・」


「・・・・・切手とかも集めてそうね」


好き勝手に上司の評価をしながら乙女達は・・・・思わぬ臨時収入の使い道を黄色い声で話し始めた。




クシュン・・・・!!
大きくクシャミをしながら執事は一人自室で――古銭の山を前に分厚い貨幣のカタログを真剣に捲っている。


「天清豊楽銭・・・・宝四貨・・・寛永通宝芝銭二草点手大字・・・・凄い・・・・こちらの二つは・・・・・和同開珎?本物か・・・・?」



これだけの貴重な古銭があれば一財産。
後で士度様に報告せねば――



もしかしたら一つや二つ・・・自分のコインコレクションが増えるかもしれないし・・・・。


淡い期待を胸に抱きながら、その夜その部屋の明かりは遅くまで消えることがなかった。








Fin.




せっかくですのでガラクタで遊んでみましたv
ちなみにパルミジャーノ・レッジャーノはイタリアの超硬質高級チーズで、一玉作るのに500リットルのミルクが必要だとか。
シャンベルタンは仏の高級ワイン・・・・ものによってはお値段は一本3万とかそれ以上とか。
和同開珎は本物だと・・・30万↑の値段がつくこともあるそうです(笑)



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