時に愛は
人の心を
臆病にさせる
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例えば、仕事が重なって数日間ろくに会話もできなかった後とか。
例えば、庭で隣同士で座っているときとか。
例えば、おやすみを言ったその刹那――
そして例えば――朝、一人きりで目覚めたベッドの中で・・・・
「欲 し い」
――そう思ってしまうことは、いけないことだろうか・・・
初めての恋をして――自分でも不思議なくらいに夢中になって――今まで感じたことの無い、新しい幸せに身を浸して――愛を・・・感じて―― 一つに、なれて・・・――
そう、彼と初めての夜を過ごしたのは、二週間と少し前。
繋がる恐怖、不安、戸惑い、羞恥、痛み――彼はこれらを全部優しく抱きしめて、そして何にも勝る喜びで私を満たしてくれた・・・。
――そして、二人の心も前にも増して近くなったようにマドカは思う。
互いを思いやり慈しむ心は、言葉にせずとも傍にいるだけで――感じることができる不思議。
そんな優しい時間の一刻一刻の積み重ねが、二人の絆をどこまでも深く深く結びつけていくのだろう――しかし、そうは思いながらもマドカは安堵と不安が綯い交ぜになったような複雑な表情をしながら、小さな溜息と共に手にしていたティーカップをゆっくりとテーブルの上に置く。
するとカチャリ・・・と居間の扉が開き、仕事の電話を終えた士度が戻ってきた。
彼の気配にマドカの表情が柔らかくなり――そして彼女はポンポンッ・・・・と軽く、控えめに――ソファの自分の隣にあたる部分を叩いた。
そうでもしないと時々彼は――暖炉を背凭れにして立ったままだったり、マドカの向かいのソファに落ち着いてしまったりするからだ。
別に彼女を避けているわけではなさそうなのだが、そんな彼の些細な行動が不意にマドカの心に哀を指すときもある――私はいつだって・・・隣に座って欲しいのに・・。
彼が真っ直ぐこちらに身体を向けたので、マドカは密かに胸を撫で下ろした。
一方、彼女の仕草を見落とさなかった士度は、当たり前のようにマドカの隣に腰を下ろし、チラリと彼女の方を伺った――するとマドカは彼の肩に、コテン・・・と頭を凭せ掛けてくる。
「どうした・・・?疲れたのか・・・・?」
今日の彼女はブランチ・コンサートを終えて先程帰宅したばかり。心なしか、どこか元気がないようにも見える・・・。
士度はコクリと頷いた彼女の頭が丁度良い位置にくるように、自らを少し深めにソファに預けた――マドカの口元が小さく綻んだ。
「少しの間・・・・こうしていてもいいですか・・・・?」
――あぁ・・・・
深い声も、服越しに微かに伝わる彼の体温も、いつも通りに優しくマドカに浸透する――目を瞑り、安心したようにその身を彼により深く預けると、士度はスッと右手を上げ――彼女の髪を戯れに梳いてきた。
とても、幸せな時間――
彼からの音にならない言葉が、マドカの闇を心地よく柔らかな
(このままギュッって・・・抱きしめてもらいたいな・・・・)
眠りに誘われながら、マドカはボンヤリとそんなことを思った。
身を繋げたあの日の以降も――彼のマドカに対する接し方はあまり変わらなかった。
おやすみのキスはいつも通り。
マドカが手を寄せれば握り返してくれるし、マドカがおずおずとその身を寄せればどこかぎこちなくだが、抱きしめてくれる。
そしてマドカが目を瞑って恥ずかしそうに頤を上げれば――彼は、優しく、柔らかなキスを落としてくれる――
士度はマドカのサインになるべく敏感であろうとしているようだった――しかし、彼女の想いとは裏腹に、彼は自分から仕掛けるようなことはなかなかしてこない。
それでもマドカの傍にいるときの彼の気配は、どこか安心しているように穏やかで・・・・まるで傍にいるだけで満足しているようだ。
(士度さん・・・ベタベタするの、あまり好きじゃないのかな・・・・)
男の人って・・・そうなのかしら・・・・それとも、士度さんが・・・・真面目だからかな・・・・――
もっと触れたい、抱きしめられたい――あの、最初の夜のように。
そんな欲求が日毎に高まっていってしまうのは、きっと自分が今、“思春期” という時期にさしかかっているからだと、マドカは恥じ入るように感情を押し込める。
きっと士度さんくらいに大人になったら――落ち着いた恋ができるのだろう。
きっともっと互いの心を分かち合えるようになったら――「欲しい」なんて贅沢で浅ましい気持ちは、どこかへいってしまうのだろう・・・・
マドカがウトウトとしていると、その小さな頭が士度の肩口から外れ・・・・刹那、彼女は眠りから叩き出されたが、士度の大きな手に受け止められて――マドカの頭は彼の膝の上に導かれた。
「夕飯まで・・・・そのまま寝てろ・・・」
一瞬身を起こそうとしたマドカを軽く制し、士度はもう一度彼女の髪を優しく撫でた。
愛しい気持ちがー―浸透してくる音がする。
――・・・・・・はい。
マドカは自分の思いが小さく叶ったような気がして、高鳴る鼓動を沈めるように再びゆっくりと目を瞑った――
ジーンズの生地を通して伝わる彼女の頬のぬくもりに戸惑う彼に気付かぬまま、彼女は束の間の眠りにウットリと手を伸ばした。
士度は手を伸ばせばすぐそこにあるクッションを、彼女の頭に宛がってやらなかったことを――天井を仰ぎながら居間で一人、後悔していた。
「おやすみ、なさい・・・」
「・・・・あぁ、おやすみ。」
いつも通り少し気恥ずかしげに・・・・士度はマドカの額にキスを落とすと、彼女の、まだシャンプーの香りが優しく香る髪をクシャリと撫で、踵を返した。
マドカは暫く廊下に立ったまま、離れていく彼の足音を寂しそうに見送った――やがてカチャリとドアノブが回り・・・・彼がこちらを向く気配がした刹那、マドカは心配されるのが居た堪れなかったので、慌ててモーツァルトを急かしながら自分の部屋の中へスルリと飛び込んだ。
今、彼に顔を見られたらきっと知られてしまうから。
自分の幼い心が何を求めているかなんて――
モーツァルトの為に点けておいた暖色の仄かな明かりがマドカを照らす。
夕食前に寝入ってしまったせいで、マドカの眼はすっかり冴えてしまい、彼女は一人ソファに身を沈め、点字の本を読んでいた――もうかれこれ一時間ほど。
中身はほとんど頭の中に入ってこない――ただ、寂しい――そんな想いが募るばかり。
すると不意に・・・・・コンコンッ・・・・と扉をノックする音が聞こえ、マドカは反射的に顔を上げた――
「・・・・マドカ、俺だ・・・・。起きてるか・・・?」
「は、はい・・・・!」
想い掛けない訪問者に慌てたマドカがソファを降りる前に、士度は彼女の部屋へと入ってきた。
「本・・・・読んでたのか。悪かったな、邪魔して・・・・」
彼女の膝の膝掛けの上にある本を眼にすると、士度はばつが悪そうな声を出した。
「あ・・・・い、いいえ・・・あの・・・・でも・・・・ほとんど読んでなくて・・・・・」
しどろもどろに答えながらマドカはソファから立ち上がると、気持ちを誤魔化すように本棚へと向かった――士度も後ろから黙ってついて来る。
マドカは本を差し込む空いたスペースを探す為、本棚の列に手を這わしたが、気持ちが焦っているせいか、なかなか目的の箇所が見つからない。
「・・・・ここだ。」
「――!!」
士度がマドカの手を取り、その本が納まる場所へと彼女の手を導いてやる――彼の吐息が彼女の首筋を掠め――彼女の身体は炎を孕んだかのように熱く上昇した。
コトン・・・と音を立てて本が納まった後も、士度は彼女の手を離さない――火照った自分の身体を悟られまいと、マドカは懸命に声を絞り出す。
「あ、あの・・・・何か・・・・用事・・・・――ッ!!」
振り向いた刹那――唇を深く奪われ――マドカは思わず甘い声を漏らしながら彼のシャツに縋りついた。
それは――二週間振りの、情欲を伴った熱く、滾るキス。
自分の胸の鼓動が、泣き出したいくらいに早まるのをマドカは熱に浮かされながら聴いた――
「ふ・・・・ァ・・・・」
翻弄されるように口腔を掻き回された後、やがてピチャリ・・・と音を立てながら唇が離れ、マドカは縋るように士度に凭れかかった。
「用事、か・・・・」
士度が労わるようにマドカの肩を撫でると、ピクリ・・・・と彼女の四肢が切なく震えた。
「お前に触りたくなった・・・・ってだけじゃ、ダメか・・・?」
マドカの髪に顔を埋めるようにしながら、遠慮がちに呟かれた彼の台詞に、マドカは緩々と頭を振る――
「ダメじゃ・・・・ない、です・・・・」
抱きしめられたぬくもりに、涙を誘われる程の幸せを感じながらマドカは彼のシャツを握り締めた――
そして二人はもう一度
<遊ブノ?>
二人の足元で無邪気な声がした。
<士度トマドカ、コレカラ、遊ブノ?>
――ジャア、僕モ、仲間ニ入レテ?――
モーツァルトが尻尾を振りながら、お気に入りのボールを口に銜えて、眼を輝かせている。
「「・・・・・・・」」
二人は一瞬、顔を見合わせたが――「キャッ・・・・!?」――士度は徐にマドカを抱き上げると、真っ直ぐに扉に向かっていった。
一方、モーツァルトも尻尾をパタパタさせながら、士度の後をついていく。
「ああ、少し遊んでくる・・・・」
モーツァルトの耳が嬉しそうにピョコンッ!!と立ち上がった。
「だからお前はそこにいろ。」
<エッ……?>
モーツァルトの口からポトン・・・とボールが落ちた。
士度はマドカを抱えたまま器用に扉を開けると、モーツァルトが一歩を踏み出す前にバタン・・・と再び扉を閉める。
<エ・・・・・・エェ〜〜〜ッ!!?>
部屋の中からバタバタキュンキュンと暴れる音がしたが、士度はマドカを抱えたまま真っ直ぐに自室を目指す。
「ちょっと、可哀想かもです・・・・・」
「たまには “マテ” も大切だ・・・・」
士度からの、普段めったに聞かないような台詞にマドカが目を細めると――
「こっちは長いこと “オアズケ” だったからな・・・・」
背にベッドのスプリングを感じるや否や、士度が焦がれたかのようにマドカの首筋に顔を埋めてきたので――
マドカは全てを委ねるように躰の力を抜くと
幸せに浸るようにそっと目を細めた。
「アッ・・・・ん・・・・」
彼女の露になった白い乳房にそっと手を這わし、全体を優しく撫でてゆくと、甘い蜜のような声が広い部屋に木霊した。
指に吸い付くような彼女の肌の感触を確かめるように、士度の手はゆっくりと胸から胴へと移動する――彼女の息が徐々に切なく、熱くなり、
同時に胸の桃色の頂は徐々に固さを増していった。
士度は時折、楽しむようにその淡い色の実を食みながら、彼女の嬌声を引き出し――そして白く雪のような大腿を辿りながら手を伸ばし、マドカの奥芯に触れた――
クチュ・・・・
既に溢れんばかりに濡れていた彼女の中心は、士度が撫で上げる度に透明な蜜が彼の武骨な指に絡みつく――自分の下肢から聴こえてくる卑猥な音にマドカは頬を紅く染める――その恥じらいの表情があまりにも愛らしかったので、士度はクスリと口角を上げた。
「だ、だって・・・・あれから・・・その・・・・士度さん、してくれないから・・・・・」
貪欲に彼を求める自分の躰への言い訳のように、マドカはシーツに顔を埋めながら呟いた。
「私の躰・・・・魅力無いのかなって・・・・士度さん、こうゆうこと、あまり好きじゃないのかなって・・・・ッア・・・・!!」
士度が彼女の
「何言ってんだ・・・お前・・・・。初めて、お前を抱いたとき・・・・」
呆れたような溜息と共に、彼の頭が徐々に彼女の中心へと下がっていく――マドカはそれを止めようと戸惑うように硬い髪に手をかけたが、躰の中を掻き回す指に翻弄され、上手く声も出せない――
「・・・・・こんなに細くて柔らかい躰に・・・・何度も
――でも、もう、我慢しねぇ・・・・
お前が・・・あんな顔するくれぇなら・・・・――
「え・・・?・・・・っきゃ・・・・あっ・・・・!!」
――彼に・・・気付かれてた・・・?
そっと、蜜に濡れた花弁に唇を寄せ、その愛液を舌にのせると、マドカの躰が大きく跳ねた――自分の不浄の場所に彼が・・・・口を・・・――初めての彼からのこの行為に――マドカの思考はついていけず、最奥を攻めてくる指と、花を味わうように濡らす舌に翻弄されるばかり。
「し・・・・士度、さん・・・・や・・・・やめて・・・・ア・・・・」
――そんなコト・・・・・しないで・・・・
しかしマドカの蕩けた音色の懇願はあっさりと聞き流される――愛撫にすっかり絆された彼女の四肢は、すでに抵抗する力を残していない――
最早震える声しか出ず・・・・壊れたように尽きる事無く滾々と蕩けるような蜜を湛える自分の躰に恐怖を抱きながらも、マドカは漏れる甘い声を止められない――
躰中を渦巻く欲に染まった深い熱と、五感と思考を何処かに落とされるような、痺れるような感覚がマドカを襲い――その身に、躰の内側に直接触れているのが彼の舌や吐息だという事実が、彼女に陶酔に似た眩暈をもたらした。
「ダメ・・・・ダメ・・・・っあ・・・・ッ・・・・ア――ッ・・・・」
舌先で先端の紅い果実を転がされ、長く温かな舌を指と共に蜜壷の奥へと忍ばされ――不意に、マドカの躰がビクリと跳ね上がったかと思うと、小さな痙攣が何度か続き――声無き悲鳴とともにクタリと身体の力が抜けた――
浅い吐息を漏らしながら、ベッドの上で時折ピクリと揺れるマドカの姿態に、士度は己の指を伝う彼女の残滓をペロリと舐め取ると、惹かれるように手を伸ばす――マドカはその熱く、大きな手に――甘えるように頬を摺り寄せてきた。士度の手はマドカをあやすようにその頬を撫で、彼女の薄らと芳しい汗に濡れた肌を悪戯のように辿り――彼女の白い大腿を確かめるように往復し、彼女から啼くような声を引き出した。
彼女の中心は蕾が花開くかのようにしっとりと柔らかくなり、まるで誘うように蠢いていた――サイド・チェストに手を伸ばした後、士度は彼女の躰を引き寄せ――まだ初々しいその蜜口に自身を押し当てる――刹那、少し怯えるような瞳をしながら、マドカは両腕を士度の方へと伸ばしてきた――士度は彼女の手を自らの広い背に回してやり、その頬や首筋に唇を落としながら、ゆっくりと身を彼女に沈めていった。
「あ・・・・っ」
その声ごと――喰らい尽したくなるような音色で彼女は啼く。
彼が躰を進める度に身を震わせ、嫋やかに背を仰け反らせながら、彼女は彼の薄らと汗ばんだ背に縋りついた――そして最奥まで彼を受け止めると、彼女は安堵したような表情で・・・見えぬ瞳で彼を見つめてくる――
「マドカ・・・・」
名を呼び、紅く美しく色づいた唇を啄ばむと、頬を桃色に染めながら、うっとりと至福に満ちた表情をする彼女・・・・その
一つになった部分から漏れる――互いが擦れ合う卑猥な音も、握り合い、絡み合う指先のぬくもりや、分かち合う吐息、奥から広がる躰の熱、切なげに呼ぶ声に全て掻き消され――
ただ、再び限りなく近くにいる存在への喜びと愛しさの音色が――二人の心に木霊し続けていた。
「我慢・・・してたんですか?士度さん・・・」
火照る躰を彼の胸元に寄せながら、マドカは悪戯っ子のように訊いてきた。
士度が躊躇いがちに・・・・黙って頷く気配がした――マドカが擽ったそうに微笑む。
「やだ・・・・てっきり・・・私ばかり、その・・・・だと思っていました・・・・」
顔を朱に染めながら、マドカは小さく小さく呟いた――すると士度は――彼女を引き寄せ、抱きしめながら大きな溜息を吐く。
そんな彼の行動に、マドカは喜びを隠さず――彼の腕の中で美しく破顔した。
「お前さ、もうちょっと自覚しろよ・・・・」
士度の言葉に、マドカは不思議そうに首を傾げる――
例えば、自分がどれだけ惚れ込まれているのだとか・・・・例えば、どれだけ熱い視線で見つめられているのだとか・・・・
――士度は流石に口には出さず、黙って彼女を抱く腕に力を篭めながら、寝の体制に入った。
マドカは目を瞬かせながらも、彼のぬくもりと匂いに身を任せ、幸せを噛み締めるように目を瞑った。
――やっぱり、一人ぼっちの心じゃなかったのね・・・
恋人が隣にいるという幸せと・・・また一つ、確かに繋がった心を大切に胸の宝箱に仕舞いながら、マドカは優しい夜に身を委ねた。
二度目の夜は唐突に――しかし、熱く、優しく、二人の躰に記憶を残した。
Fin.
二度目の夜は即物的に・・・してみましたv
最初の数行は二人の思いってことで。
次は・・・・最初の・・・?