−−寝息−−

ふと目が覚めたのは、開け放した窓から入ったヒンヤリとした風が頬を撫でたからだ。
               
 随分と長く眠っていたような気がした。
         
それでも、外から感じる空気はまだ夜のもの。



つと伸ばした手が触れた先は、引き締まった筋肉がついた胸元だった。
 
マドカはようやく、ベッドに入る前の状況を思い出す。

あぁ、士度さんが、本当に久しぶりに帰ってきて、嬉しくて・・・。

当の士度は、長旅の疲れからなのか、
              
マドカが手を胸元に乗せたままでいても目を覚ます気配が無い。


−私より後に士度さんが目を覚ますことなんて滅多にないのに…−


確信のない不安がマドカの頭をよぎり、右手を彼の心臓の方へずらし、
         
そして耳を澄ます。

右手には規則正しい心臓の鼓動が響き、

丁度マドカの頭の上辺りから、静かな寝息が聞こえてきた。

彼の存在が形になり、マドカを満たした。



そういえば彼の寝息をあまり聞いたことがなかったことを、マドカは今更ながら思った。

過酷な環境の中で生活してきた為か、

普段の士度の眠りは浅い。

庭で昼寝をしていても、遠く誰かの足音が聞こえると反射的に覚醒しているようだし、

“人の目覚める気配”というものが士度には分かるのだろうか、

マドカが目を覚ました時は、いつも士度はすでに眠りから覚めていて、

一言・二言発した後、寝乱れた髪を手で優しく梳いてくれる。


−そんな彼が、今は目の前で深い眠りに落ちている。

その呼吸は一定で、マドカですら耳を澄まさなければ聞こえないくらいに

静かで、穏やかなものだ。


−宝物が、又一つ増えたわ−


眠り、という彼の欠片の一つ一つをマドカは丁寧に拾い集める。

彼女の中で、彼の存在が、また少し大きくなった。

彼の呼吸をもっと感じたくて、身体を少し伸ばして、

マドカは士度の顔のそばに自分の顔を近づけた。

きっと今彼は穏やかな寝顔をしている。

時折微かに頬にあたる彼の寝息は、マドカの心をくすぐった。



どのくらい、彼の呼吸を感じていたのだろう、

ふと、彼の瞼が上がる気配がした。

ゆっくりと開かれたそれの奥にある彼の眼は、

すぐにマドカを捉えたようだった。


「…起きていたのか。」


少し掠れた声で士度は問うた。


「起こして、しまいましたか?」


自分の、彼を見つめる心が、彼の眠りを妨げたのかとマドカは不安になった。


「いや…少し風がでてきたな」


そう返すと士度は開かれたままであった窓を閉めに行こうと身を起こした。

するとマドカが、彼の胸の上に置いていた右手で反射的にそれを制した。


「マドカ?」


自分の行動に内心少し驚きながらも、マドカも身を起こして彼に寄り添い、

やや俯きながら囁いた。


「…ふたりでいれば、寒くありませんから。」


そう、ほんの一瞬、ほんの数十センチでも、

何故だか今は彼から身を離すのが嫌だった。

クスリ、と士度はマドカの頭上で笑みを漏らしたようだ。


「…そうだな」


そう答えた士度は彼女の手をとり、腰に手を回して

彼女を守るように抱き込みながら再びベッドに沈んだ。


「日が昇るまでまだ時間がある…このままもう少し眠ろう。」


「…はい」


より近くなった彼の温もりにゆっくりと身を浸しながら、

マドカは再び眠りに落ちていく士度を感じた。

やがて聞こえてきた、彼の静かな寝息に再び耳を傾けているうちに、

いつしか彼女も夢の世界に引き込まれていった。


重なり合う、恋人たちの静かな呼吸音だけが、

カーテンが静かにはためく窓から静寂の夜へと運ばれて行った。



 Fin.



        …裏に置くほどでもなかったですね;
          まぁ、初回はこの辺でご勘弁を・・・。
        
          鬼里人との戦いや裏新宿の中の無限城での生活・・・。
          マドカに出会うまで、士度に安らかな眠りの時はなかったのではないかなぁ、
          と思ったことから書留めました。

        …そういえば士度のチャクラの属性は“目覚め”でしたね。