冷静な愛撫

 

夜、ふと眼を覚ますと、あなたが起きている気配がした。




私の隣で身を起こし、あなたは窓の外を見ている。

私の眠りが途切れたことに気がついているはずなのに、あなたは何も言わないで、その視線は外へ向けられたまま。

その気配は、たとえば―― 猫が何も無い空間を一心に見つめているかのよう。

あなたは外を見つめる。

その視線の先に何が映っているのか、私は知らない。

もしかしたら、何も映ってはいないのかもしれない。

あなたは外を見つめ続ける。

無表情のまま、微動だにせず。

今、あなたの世界には誰もいない。

隣で横たわっている私でさえも存在しない。

そしてあなたの心もここにはいない。

闇の向こうの見つめる先に、あなたの意識は立っている。

そして私は――




彼に触れることで、その静寂の時を壊す。

こんなに近くにいるのに、遠い彼を引き寄せる。

その薄い唇に口付けを落とすと、彼は何も言わず、眼を瞬かせた。

その顔に、表情が戻る気配がしない――。

私の舌がゆっくりと歯列を割ると、彼は片手で私の両手を拘束しながら、

私の身体を音も無くベッドへ横たえた。

キスは続く―― 覆いかぶさるようにされているのに、彼の重みを感じない。

その舌に私の口腔は溶かされているのに、感情が判らない―― キス。

彼の手が、シルクのパジャマの上を這っている。

いつの間にか前ボタンは全て外され、私の乳房は彼の眼下に晒された。

彼の乾いた右手が私の腰をゆっくりと撫で上げた―― くすぐったさに身を捩ると、

胸の突起を唐突に甘噛みされた。

思わず高い声を上げて腰を跳ね上げる私を彼は難なく押さえつけると、

身の内を駆け抜けるような痺れる愛撫を躯中に施しながら

花びらを一枚一枚剥がすように、私を生まれたままの姿にしてしまう。

私の神経の一つ一つを呼び覚ますように這う彼の舌と指先に、私は翻弄され続ける――

手の拘束はいつの間にか解かれていた。

私は指が白くなるほどシーツを握り締め、その快楽に耐えようと踠いたが

自分の思考とは裏腹に、喉の奥からはひっきりなしに嬌声が上がる。

もう、止めて、許して・・・・

私は彼の名を呼びながら、過ぎた快楽からの解放を求めた。

彼からの返事は、ない―― その沈黙が私の心をより一層不安にさせた。

大腿を汗が伝う―― 彼の舌がそれを追うようにして舐めとった。

そしてその敏感な柔肌に朱い所有の印を落とす――チリッとした灼けるような痛みに、

私は背を撓らせて声にならない悲鳴を上げた。

眦に涙が溜まる―― 声を、聴かせて・・・・



やがて彼は掬い上げるようにして私を抱き起し、

私は彼に背を向けてその膝の上に座る格好になった。

そして今夜はまだ一度も触れられていない私の秘部に、彼自身が宛がわれる。

首を振って許しを乞う私の片手を後ろ手に拘束し、

汗ばんで硬くなった乳房を下から掴んで持ち上げるようにすると、

彼は容赦なく私の腰を落とした――。

痛みと衝撃からの悲鳴は、咬みつくような接吻に飲み込まれる。

慣れた形が、私の胎内を一杯にした。

彼の喉が小さく鳴った。

その音が無性に嬉しかった――。

私は震えながらも懸命に彼の舌を求める。

私の舌に絡まったり、逃げたりしながら時々口蓋をなぞる、焦らす様な意地悪なキスが続き、

私の息は次第に上がっていく。

唾液が溢れ、首筋に光る道をつくった。

私の二の腕を滑るようにして移動した彼の手から、

労わるような感触が伝わってきたのは、気のせい?

その手は二人が繋がっている箇所の真上で止まり、

私の秘芽を悪戯に弄った。

突然の刺激に身を捩って悶える私を彼は巧みに躍らせながら、

ゆっくりと腰を動かし始めた。






もうどのくらい繋がっているのだろう――

私は俯せになり腰を少し上げる形で、後ろから彼に穿たれている。

ポタリ・・・・と彼の汗が上から降ってきて、私の背を濡らした。

あぁ、彼が、戻ってくる―― そんな気が、した。

私の手首を上から押さえつけるようにして掴んでいた彼の指先が、私の手の甲をゆっくりと撫でた。

彼が動いた―― 後ろから覆い被さるようにして、私との距離を縮めてきた。

自然、彼との繋がりも深くなり、私は小さく呻いて背を反らせた。

すると、その肩口に口付けが――

今宵一番優しい唇を、背後に感じた。



そして彼は私の名を呼ぶ。



マドカ・・・



その声に、心がどうしようもなく締めつけられるほどに



士度さん、私の中はあなたで一杯。



だからあなたも



私ダケヲ、見テイテ。








Fin.



最後の最後まで台詞と名前を入れず、一人称で書いてみました実験SS。
士度は時々周りをシャットダウンして、どこか遠くを眺めたりしそう。
猫科の動物が時折するような、他人には見えないものを見ているような感じで。
マドカは“見えない”分、隣にいる人、それが好きな人なら尚更、その視線を感じないのが不安になるのでは・・・。
何かに少し嫉妬したマドカ、心此処に在らずの士度―― そんな二人の夜を書いてみました。