睦言


「・・・・・寒くねぇか?」


開け放した窓からひんやりとした冷気が士度の肩を擽った。
しっとりと汗ばんだマドカの柔肌を素肌に感じながら、士度は問いかけた。
自分の皮膚に吸いついてくる絹のように滑らかな肌が妙に心地よいと思った。


「ん・・・・士度、さんが
あたたかなので・・・・大丈夫です・・・・」


士度の逞しい腕に抱かれているマドカは、夢を見ているかのような甘い声を出しながら更なるぬくもりを求めるように、士度の胸元に顔を埋めた。
士度が彼女の細い肩をそっと撫でると、事後の余韻がまだ残っているのか、艶めいた唇が小さな悲鳴を上げながら痩躯をピクン・・・と震わせた。
そしてマドカは恥ずかしそうに俯くと、その小顔を士度の素肌にそっと押し付けた。


「帰ってそのままだったから・・・汗臭いだろ?」


士度に密着しながら小さく深呼吸をして微かに躰を伸ばす彼女に苦笑しながら、士度は少し自嘲気味に呟いた。
言葉とは裏腹に、胸に縋る彼女を抱きしめながら。


「あら、私、好きですよ?士度さんの・・・汗の匂い。」


クン・・・と愛らしく鼻を鳴らしながら、マドカは甘えるように彼の胸元に頬擦りをする。


「汗の・・・匂いがか?」


少し驚いたような、呆れたような声を出しながら士度は眼を見張った。
ええ・・・――そう軽やかにマドカは言うと、士度の広い背中に細い両腕を精一杯回した。


「士度さんが私の・・・・傍にいるんだなぁって思えるんです・・・・」


うっとりとした表情をしながら、マドカは彼の素肌に呟いた。
士度の掌が、まるで彼女のその言葉に礼を言うかのように、一糸纏わぬ姿のマドカの細腰をシーツの下で優しく撫で上げた。


「・・・・ッ・・・士度、さんからは・・・お陽さまや緑や・・・・“士度さんの”匂いがして・・・・私、それに包まれるといつも・・・・」


――どうしようもなく、安心するんです・・・・――


躰を掠めた緩い快楽に身を捩りながら言の葉を紡いだマドカの唇に、士度は触れるだけのキスを落とした。
そしてゆっくりと体位を入れ替え、彼女を優しく組み敷いていく。


「俺の、匂いか・・・・雄と獣の臭いだろ・・・?」


夜目に冴え、真珠の首飾りが光るマドカの白い首筋に士度は所有の印を刻みながら揶揄するように訊ねた。


「ア・・・ッ・・・好き・・・なの・・・・それも・・・・」


引きかけていた熱が再び目覚める気配を感じ、マドカは眼を瞑りながら士度の愛撫に身を委ねた。
そして――徐々に慾に染まっていくときの彼の“匂い”も、自分の心をたまらなく高揚させるということを、彼女は改めて思い知らされる。


「士度・・・さんの匂いが・・・全部・・・・私に染み込めば・・・・・」


鎖骨を緩慢に舐め上げられ、マドカの喉が小さく鳴った。
そしてチリリとした甘美な痛みを落とされ、彼女は思わず彼の硬い腕に縋る。


「それは・・・困るな。そうなっちまうと・・・・俺の好きなマドカの匂いが消えちまう。」


そう言いながら士度がマドカの顔を覗き込んできた。
マドカは彼の台詞に目を瞬かせる。


「私の・・・・匂い?」


どんな・・・・――


不思議そうな表情をするマドカの黒髪を、士度はそっと掬い上げ、口づけた。


「髪は――華。」


眼を見張る彼女を余所に、士度は僅かに立ち上がっている胸の頂を口に含む。
ビクリ・・・とマドカの躰が大きく跳ね、浮いた腰はそのまま士度の腕に絡められた。


「ここは・・・優しい匂いがする・・・・」


桃色の果実を銜えられたまま喋られ、マドカはヒュッと息を詰めながら枕に顔を押し付けた。
ピチャリ・・・と時折甘えるような音を立てる彼の愛撫は――
マドカに慾の疼きと、求められているというどうしようもない安堵感をいつも惜しみなく与えてくれた。
やがて彼女は士度が奏でる音と声に酔わされる。


「お前の肌と汗からは・・・甘い香りがして・・・・」


士度の手と唇は彼女の肌に薄っすらと浮き上がった汗を撫でるようにその白い躰を渡り、
マドカは徐々に首を擡げてくる甜い痺れに身を捩らせた。
そして――クチュリ・・・と卑猥な音を立てながら徐に秘部に触れられ、彼女は思わず士度の硬い髪に手をかけた。
しかし士度は彼女の無言の抗議を受け流し、ひどく男らしい笑みをその貌に称えた。


「知ってるか?ここからは・・・蜜の匂いがするんだぜ・・・?」

「士度、さん・・・・!?・・・・ッ!!ヤァ・・・・ッ!!」


言葉と共に熱い吐息がすでに熟れている淫花を包んだ。
愛露を湛える花片は熱を孕んだ舌にピチャピチャと音を立てながら丁寧に刺激を与えられると、
彼女から更なる快楽の涙と甘い雫を引き出した。
マドカの白い腿を細く伝う甘露を、士度は顔の横で感じながら、滾々と湧き出てくる蜜を舌に乗せると
紅玉のように赤い秘芽をも優しく嬲った。
子犬が愛情を求めるときのように少し性急に、零れ落ちるものを惜しむかのように。
やがて、そんな慾の波に流されながら啼かされ続けた彼女の、涙を溜めた漆黒の瞳が大きく見開かれると、その躰が激しく跳ね上がり、
仰け反った喉からは高い声が弾け、白い肢体は士度の腕の中で艶かしく悶え、果てた。

断続的に訪れる絶頂の余韻に身を震わせていると、彼の匂いがマドカの躰の上を優しく辿り、
うっすらと汗が滲む額に慈しみのキスが降りてきた。

まるで悪戯のように唐突に施された濃厚なスキンシップに対して
まだ上がる息の中、マドカは彼に苦言を呈そうとかと思い口を開きかけたが、
その口づけと、微かに上がった彼の体温の香りに、彼女の心はいとも簡単に絆されてしまう。


(あぁ、私は本当に・・・・――)


――彼の匂いと・・・・彼の唐突な行動に弱いのね・・・――


そして私を見つめる、このどこまでも優しい視線にも・・・。



マドカはなんとなく――少し悔しくなってしまったので、
ほんのちょっとだけ拗ねた表情をその上気した貌に滲ませながら、士度に向かって両の
かいなを差し出した。
そして首筋にその小顔を埋めてくる彼女を、士度はあやすようにして抱き起こした。


「どうした・・・?嫌だったのか?」


冷気に晒されたマドカの肌をシーツで包みながら、士度は子供に訊ねるように問うてきた。


「・・・・嫌じゃ、ないです・・・・」


――全然嫌じゃなくって、むしろ・・・――

――だから、困るんですよ・・・?――


耳元で恥らいながら呟くマドカを士度はさらに強く掻き抱いた。


「――まったく、お前は・・・嬉しいことを言ってくれる・・・」


ククク・・・と、彼にしては珍しく相好を崩して笑う士度につられ、マドカの口元も綺麗に弧を描いた。


「でも、悪戯の罰として・・・・あのケーキ、士度さんが半分食べてくださいね?」


――私たちの明日の朝ごはんですよ・・・?――


ケーキの香りを運んでくるティーワゴンの方を指差しながら発せられたマドカの言葉に、士度が僅かに固まった。


「朝からケーキかよ・・・・」


士度の多少うんざりした声にマドカがクスクスと笑う。


「甘さ控えめにしたって言ってましたから、きっと士度さんでも美味しく召し上がれますよ・・・。
それに朝からが嫌なら・・・今食べちゃいます?」


お返し、とばかりにマドカは悪戯な表情をして士度を覗き込んだ。


う〜ん・・・・士度は一瞬考える素振りを見せたが――


「いや、今は――」


ポスン・・・と音を立てて、マドカは再びベッドへ沈められる。

眼をパチパチさせる彼女に士度は続けた。


「――もうちょっと
お前こっちを味わっていたいからな・・・・」


そして蕩けるような接吻がマドカを再び溶かしていく。


「ん・・・・“ちょっと”・・・だけ、ですか・・・・?」


頬を再び桃色に染めながら、キスの合間に戯れに訊くと、


「冗談だろ?」


士度の眼が再び細まった。


――朝までずっと・・・・お前の誕生日を祝わせてもらうよ・・・・――




そしてシーツは再び翻り――睦みあう二人の声は、その夜、月風に花弁のように舞い続けた。


翌朝、士度が自らの腕の中で見たマドカの寝顔は――
幸福しあわせ色に満ち溢れていた。







Fin.






11/2マドカお誕生日関連話裏ver.でございました。
甘い二人が無性に書きたくなったので突発的に・・・表と連動してむしろ、発作的に;
表のマドカ嬢お誕生日関連話とは“月夜の晩に”→“my one & only…”→本作“睦言”と続いております。
宜しければ合わせてお楽しみ下さいませ・・・!