【5】
スプリングの効いたベッドにマドカを座らせると、彼女の顔に不安の影がサッと過ぎった。
しかしその手は士度のシャツを掴んだまま離そうとはしない。
士度が彼女の隣にゆっくりと腰を降ろすと、マドカの戸惑いがさらに大きくなったような気配がした。
士度はそんな彼女をそっと引き寄せ、いつもはマドカの部屋の前でするオヤスミのキスを、その額に落とした。
目を瞑りそれを受け止めるマドカの表情がほんの少し和らぐ。
「・・・・マドカ。本当に怖いのなら・・・無理をするな。」
― お前の顔は不安で一杯だぞ? ― 士度はもう一度、確認するように彼女に問い掛けた。すると彼女は小さく首を振る。
彼の表情を感じようとする、その見えない眼差しはとても真摯なものだった。
「違うんです、士度さん・・・私、士度さんのことは全然怖くないです・・・・ただ怖いのは・・・私自身のこと・・・・」
マドカは士度を見つめるように顔を上げると、哀しそうな表情で言葉を紡いだ。
「私・・・・何も知らないんです・・・・自分の身体のことも、これから士度さんと一緒に・・・・その・・・することも・・・・だから・・・・」
士度がマドカの頬に触れるだけの口付けを落とした。
マドカはその唐突な行為に目を瞬かせながらも、懸命に続ける。
「・・・・だから、ちゃんと、できるかどうか・・・!・・ッ・・・・ン・・・・!」
士度の唇がゆっくりと、マドカの耳朶を含んだ。
ペチャリ、と濡れた音が直接脳に響き、続いて耳殻を尖らせた舌で舐められると、今まで感じたことのない感覚がマドカの耳から首筋を通り、肩まで走り抜けた。
そして士度がそのまま発した声に、その息に、マドカの痩躯はさらに震える。
「大丈夫だ、マドカ・・・・俺に身体を預けてくれればいい・・・・」
そう言うと士度は再びマドカの口内に侵入する。
しかし今度のそれは確実にマドカを快楽へと導こうとする優しい情欲を伴ったキス・・・。
士度は慎重に彼女の歯列をなぞり、口蓋を舐め上げ、彼女の舌を導いた。
「ア・・・ん・・・・・」
いつもとは全く違う情熱的なキスに戸惑い、反射的に逃げようとする舌を追いかけられ、絡めとられる。
それでも、マドカは士度の導きに答えようと必死にその舌を動かした。
そんな風にマドカが未知なる口付けに気をとられているうちに、ワンピースの前ボタンはいつの間にか全て外されていた。
少し湿った空気が肩に纏わりつく。
そして彼女がそんな衣服の状態に気がつく前に、その細い肩からワンピースが滑り落ち、露になったわき腹を士度の掌がするりと撫でた。
「あ・・・士度、さん・・・・」
マドカはその身を隠そうと咄嗟に士度にしがみついたが、彼の手はマドカのなだらかな背を伝うと、上半身に最後に残った下着をも簡単に取り去ってしまった。
そして彼女のその控え目な胸が空気に晒され、震える・・・・マドカが顔を朱に染める前に、士度の指はその胸の頂へと到達し、その先端を掠めた。
「ア・・ッ!や・・・ッ・・・!」
初めての痺れるような感覚に自然、マドカの顎が上がり、その白い首筋が露になる。
士度はその震える首筋に口付けを落としながら、ゆっくりとマドカの身体をベッドの上に横たえた。
最早布一枚だけを辛うじて纏っているだけのマドカの肢体が士度の眼下に晒される。
自分ですら知らない裸体を想いを寄せている人に余すところなく見られてしまっている現実に、どうしようもない不安と羞恥心を感じ、
マドカは思わず両腕で自分の胸元を隠した。
そして目に涙を浮かべながら顔を背けて小さく呟く。
「お願い・・・見ないでください・・・・」
士度との距離が近くなり、マドカが身体がビクリッ・・・と震える。
彼の素肌と体温が自分のそれに重なってきた―― たったそれだけのことなのに、マドカの心臓は弾けんばかりにその鼓動を早める。
すると彼の逞しい左腕がマドカの華奢な背中を一周し、彼女の肩をその大きな掌が掴んだ。
「・・・・どうしてだ?お前、こんなに綺麗なのに・・・・」
その言葉にマドカは弾かれたように顔を上げた。そして彼の顔に手を当てる・・・・。
「・・・・キレイ?私、が・・・?」
――何をそんなに不思議がる必要がある?――
士度は優しく微笑み、その手にそっと口付けを落としながら囁いた。
「お前の肌は―― まるで雪のようだ・・・・」
白く、柔らかく、そして純粋な・・・・・果てしない空から舞い降りてくる、使いの色だ――
彼の言葉に放心した状態のマドカに、やがて、あやすようなキスが顔中に散らされ、士度の唇はその首筋を伝い、そのまま彼女の鎖骨へと辿り着いた。
士度はそこへ再び所有の印を刻む・・・・マドカの感覚を緩く貫いたチクリとする痛みはしかし、彼女に新たな感覚への扉を開く切っ掛けとなった。
士度は身を捩る彼女の動きに合わせるかのようにその唇を移動させ、彼女の左の乳房を口に含んだ。
「ふ・・・!・・・ア・・・んッ!」
今までのどの愛撫よりも強烈にその柔肌を犯した刺激に、マドカの背は綺麗な弧を描いた。
しかしいつの間にか彼女の肩から降りてきていた士度の左手が彼女の右胸の突起を捉え、捏ねるような愛撫を施したことで、マドカはさらなる悲鳴を上げるしかなかった。
「あぁ!アッ・・・・ンアァ・・・ッ!」
身体を走り抜ける快楽に翻弄され、マドカはその指が白くなる程に手元のシーツを握り締めた。
感じたこともないような熱がマドカの体内で渦巻き、暴れ始めた。
見えない眼の代わりに敏感になったマドカの触覚も聴覚も、今はただその熱に翻弄されて本来の機能を果たすことを忘れようとしていた。
マドカはただ、士度の存在を懸命に追いかけることで、自分を繋ぎとめようとしていた。
「ああっ…やっ…ア…!アッッ…!」
胸を吸われ、軽く歯を当てられるたびに、瞑った瞼の裏に火花が走り、背筋が電気に貫かれたかのように震え、
いつもより熱の籠もったその大きな掌の中で乳房が揉まれるたびに、身体の底に騒めきが広がる。
士度の硬く熱い肌がマドカの絹のように滑らかな肌に触れると、その柔肌にしっとりと汗をかかせた。
やがて士度の薄い唇は彼女の喘ぐ鳩尾を這った。
マドカは士度の身体の一部が触れる度に、どうしようもなく反応する自らの痩躯に戸惑いを感じていた。
初めて感じる他人の手なのに・・・・この躯はこんなにも敏感に、素直に、快楽を受け入れようとしている・・・・自分の身体は、こんなにも淫らなモノだったのだろうか?
この反応を士度さんはどう思っているのだろう?そう考えると、それがとても恥ずかしくて、恐ろしくて・・・・それでも、彼に触れられることがどうしようもなく嬉しくて・・・・。
マドカは与えられ続ける欲の波から逃れられずに悶えながら、消え入りたいような心境に陥っていた。
しかしそんな思いも、士度の次なる行動によって一瞬にして掻き消されてしまう。
先程までマドカの背やわき腹を這っていた士度の指の感覚が、マドカが唯一身に纏っている布の隙間から、彼女の敏感な部分に触れてきたから。
「!?士度さっ・・・ダメッ!!そんなところに・・・・やあぁっ!!」
先程までマドカの背やわき腹を撫でていた士度の長い指がマドカの中心の襞をクルリと撫ぜた。
自分ですら余り触れたことが無い部位への容赦ない愛撫に、マドカの全身がびくびくと痙攣し、
自分でも信じられないような高い喘ぎ声と共に、下肢からピチャッ・・・と水音が聞こえてきて、彼女は耳を塞ぎたいような羞恥にかられた。
彼女の反応をチラリと横目で確認しながらも止めようとしない士度の指の動きに、マドカは首を左右に振ることによって抗議を示したが、
士度は快楽に戸惑い小刻みに震えているマドカの脚をさらに押し開くと、すでに十分に潤っているその蜜壷に指を埋めていった。
「!?っ・・・・ん、や・・・アッ!」
クプリ……と淫蕩な音がマドカの耳を犯した。
いつもは自分の手を優しく握ってくれるその指が、今は自分の中に深く入り奥を探っていることを感じ、その事実が頭の中で反芻されたとき、
マドカは身の内からゆっくりとせり上がってくる熱に翻弄された。
そして士度の形の良い指がある一点を掠めたとき、その熱が一気にマドカの感覚器官に押し寄せてきた。
「やッ!ァ・・・ダメです士度さっ・・・・ッ!!お願・・・・離し・・・・あぁっ!!」
マドカの身体が大きく撓った。
士度はその媚態を眺めながら、彼女の悶える痩躯をしっかりと支える。
天を仰いだ胸の飾りが、引いていく波に彼女が喘ぐたびに上下に揺れ、やがてマドカの身体がシーツに沈んだ。
白い身体が余韻に震え、浅く速い呼吸をマドカが繰り返す中、士度は彼女の頬に労わりのキスを落としながら問いかける。
「辛いか?マドカ・・・・」
マドカは小さく首を横に振って、士度の手を握った。
「悪ぃな・・・お前のこんな露な姿を見たら、俺も、もう・・・余裕がない・・・・」
―― いいか?――
汗で張り付いたマドカの髪を優しく掻きあげながら、少し掠れた声がマドカの耳元で言霊となった。
士度が言わんとしていることを理解したマドカは、頬を染めて俯きながらも、返事の代わりに彼の手をもう一度、今度は少し力を込めて握った。
士度の口元でピッ・・・と小さく何かの袋を破る音がした。
「俺に掴まって、力を抜いていろ・・・・」
士度はマドカの頭を撫でて彼女を落ち着かせるようにしながら、滑らかな腿をそっと押し上げる。
限界にまで張り詰めた自分自身をマドカの入り口に押しあてると、彼女の躯がピクリと震えた。
そしてその細腰は反射的に逃げかけたが、士度はそれを捕まえると、その身をゆっくりと彼女の柔らかな胎へと進めていった。
「――――!!」
マドカの漆黒の瞳が、裂く痛みと驚駭から見開かれ、その眦に一気に涙が溜まる。
彼女の苦しげに寄った眉を辛く眼の端に納め、罪悪感を感じながらも、士度は更に奥へと進んだ。
細く、声になりきらない悲鳴がマドカの白い喉元から漏れた。
彼女の苦痛に耐えるように顰められた表情に魅せられながら、最後まで自身を納めてしまうと、士度は身体を倒してマドカの額に口付けた。
彼女の内側は燃えるように熱く、狭かった。
「マドカ・・・・」
胸を薄く上下させる彼女を、士度は心配そうに覗き込んだ。
「・・・苦しいか?」
こんなときでさえ、気の利いた言葉が浮かんでこない自分の不器用さを歯痒く思いながらも、士度は彼女の身体を労わるように撫でた。
すると、マドカは彼の頬にそっと触れながら、苦しい息の中で微笑んでくる。
「・・・・士度、さんが私の中、に・・・・ッ・・・・私たち、今、一つに・・・・」
――嬉しい、です――
彼女の漆黒の眼から溢れる雫は眦を伝って止め処なく流れているのに、それでもそう言いながら自分に向かって慈愛の表情を向ける彼女の姿がどうしようもなく愛しくて、
士度は甘い汗の匂いがする華奢な肢体を強く抱きしめる。
壊したくない、哀しませたくない、怖がらせたくない・・・・守ってやりたい・・・・それでも、身体中で彼女という存在を確かめたかった。
マドカも士度の広い背中にその細い腕を精一杯回しながら、鈍い痛みの中でも、それに勝る充足感に身を浸していた。
彼と・・・彼が、限りなく近くにいる・・・・彼が私の中に納まって、私を内側から感じてくれている―― 彼の存在を内側からも感じられる・・・。
うっすらと汗に濡れた二人の肌が、溶け合うように重なった。
触れ合う場所から互いの鼓動と熱が流れ込んできた。
そして二人はどちらともなく唇を合わせ、一つになれたことの喜びを暫く分かち合っていた。
互いの魂が、身体を越えて行き交うような錯覚に陥りながら。
「・・・動くぞ」
やがて静かな、男らしい声がマドカに伝えた。
「はい…あ、ぅんッ・・・・」
ゆっくりと、小さな円を描くように士度の腰が動く。その律動は徐々に速くなり、先程の前戯で見つけたマドカの敏感なところを擦っていく。
「あ、士度さ・・・・・・士度さんっ・・・アッ ああっ…アッ・・・」
長い黒髪を振り乱し、マドカは士度の名を紡いだ。
カーテンが冷たい空気に翻る窓から夏の夜空に木霊したのは、彼女の妖艶な喘ぎ声と、誰よりも愛しい人の名だけ・・・・。
「・・・士度さ…士度っ・・・・・・や、あぁっ・・・!!カラダ・・・熱くて、変に・・・アッっ!!」
ぱさぱさと長い髪がベッドの上で踊った。
マドカの白い肢体は薄紅に染まり、止まらない涙が閉じられた瞼の間から零れた。
士度はその雫を唇で受け止め、彼女の小さな相貌に緩やかなキスの雨を降らせ、その白い肩や首に華やかな朱花を咲かせていった。
痛みが徐々に和らぎ、代わりに熱さと快楽の波が得も言われぬ愉悦となってマドカを襲った。
彼女はただそれらに翻弄され、士度に縋りついたまま啼き続ける。
士度も、未だかつて彼女が放ったことの無い淫蕩な彩を含む色香に煽られて、衝動のままにマドカの身体を貪り、唇を奪い、腰を突き上げてその悦を孕み始めた嬌声を楽しんだ。
「――――!?」
不意に・・・ドクリ、とマドカの躯中を痺れた戦慄が走り抜けると、一瞬にして全ての感覚が取り除かれ、
マドカは宙に一人放り出されたような錯覚に陥り、どうしようもない恐怖が彼女を襲った。
悦楽から身を捩っていたその動きがピタリと止まり、怯えの色がマドカの瞳から更なる涙を引き出した。
「―――!!やあぁ・・・っ!!何・・・!?嫌ァ!!士度、さん!士度さん・・・どこ!?」
凄切なまでの快楽のせいで、急にパニックになったように士度を求め泣きじゃくりながらその両の腕を虚空に彷徨わすマドカの様子に、
士度は彼女も自分も限界が近いことを知る。
「――クッ・・・!マドカ、マドカ・・・・・俺はここにいる・・・・」
彼女の中で強い締め付けを感じながら、士度はその細い腕をとり互いの指を絡めると、あやすようにマドカの唇を攫い、性急に舌を絡め、口内を犯した。
「―――ンっ!ウンッ・・・ンンッ!!」
唇を塞がれ、くぐもった声の中でもマドカは喘ぎ続け、士度の首筋にしがみつきながら彼の逞しい体躯の下でその細い身体をひっきりなしに捩らせ、身を震わせた。
「・・・っ・・・士度、さん!士度さん・・・ッ!も、・・・アッ!・・・ダメっ、だめ、ぇ…っ!!」
「マドカ!――――っ!」
「ンッ・・・!!ああっ…!!――――」
月明かりに照らされた二つの重なり合った影が大きく震えた刹那、動きを止め、やがて一つに溶けあいながら寝台へと沈んでいった。
色慾の波に意識を奪われながらも伸ばしたマドカの手は、確かに彼の人に捉えられ、そして彼女の耳を掠めた愛を囁く言葉に、瞳の雫は再び誘われた。
糸が切れたようにその意識を手放したマドカの痩躯を士度はそっと抱き寄せると、その額に今宵何度目かの口付けを落とし、
まるで何かに祈りを捧げているような面持ちで、彼女の清麗な貌を見つめ続けた。
両頬に流れているその涙の通り道が、月夜に美しく光る。
士度の腕の中に納まっている彼女の身体が夜風に小さく震えた。
士度は薄い羽毛の掛布を手に取り、彼女を包む様にして共にシーツの海へと身を投げた。
美しくどこまでも優しい音色を奏でるその指に、拳をつくることだけが得意だったその大きな掌を捉われたまま。
愛を教えてくれたその存在を、その双眸に焼き付けながら。
表ページMondlichtのGallery掲載『最初の夜』(全六話)の五話目です。
一度は書いてみたかった初夜場面。そうなるといずれは二回目の夜も?
やはり艶っぽいシーンは難しいです;特に士度・・・君の場合は。
(うちの士度はそれなりに経験があるという設定で。魔里人の成人の儀式とか・・・・)
【3】の救急箱に、大事なモノが入っていた模様。