狼さん 羊さん


illustration by pome様


ある晴れた秋の昼下がり。

市場へと続く小道。


「こんなガリガリの仔羊が混じってたんじゃ、他の奴等の栄養も怪しまれちまう!」


広い野原に小僧を叱る羊飼いの不機嫌な声が響き渡りました。

そしてその羊飼いは荷馬車の上から二匹の仔羊をつまみ出すと――

木の箱に入れて小道の脇に置きました。


「親父さん、帰りにこいつらをまた拾って帰るンですかい?」


小僧の質問に羊飼いは「馬鹿言ってんじゃねぇ」と吐き捨てます。


「食用羊がこんなにも痩せてるんじゃ、もうこいつ等は売りモンにならねぇよ・・・
かと言ってここで野放しで捨てていくと、落とし物だと思って親切な誰かがまた市まで連れてきちまうからな。
分かりやすいように捨てていくんだ。」


――気のいい狼でもいれば、こんな奴等でも腹の足しにしてくれるだろうよ・・・――


<あ・・・ま、待ってください・・・!!>

<こんなナイスバディを捕まえて、痩せているとは失礼な・・・>


箱に入れられた白い仔羊と黒い仔羊はそれぞれキュンキュンと文句を言いましたが、
羊飼いはそれを無視してさっさと荷馬車に飛び乗ってしまいました。

<サヨーナラー・・・・>

<僕達は立派な食用羊になるよ・・・・>

<サヨウナラ・・・・サヨーナラ―――>




兄弟達はどこか誇らしげに、そのまま荷馬車に揺られながら行ってしまいました。

白い仔羊と黒い仔羊は、粗末な木箱の中で、ただただ途方に暮れながら兄弟達を見送ることしかできません。

――段々と仲間の声が聴こえなくなり・・・・荷馬車も視界から消えてしまうと、仔羊達の目の前に広がるのは、ただっ広い緑の原野。
秋の終わりの冷たい風が、仔羊達の頭上をヒュルリと木の葉をのせて通り抜けました。

そして続くのは――遠く森で小鳥が囀る声と、自然の沈黙。

白い仔羊は急に寂しくなりました。今の今まで――沢山の兄弟達に囲まれて生きてきた仔羊にとって、この秋の静けさはとても恐ろしいものに感じられました。

「・・・とても静かになってしまいましたね、お姉様・・・・」

白い仔羊は沈黙から逃れるように、一緒に捨てられた姉羊に声を掛けました。
隣にいる黒い姉羊はどこか少し眠たそうです。

「・・・そうね、皆と離れ離れになってしまったものね。」

黒い仔羊は欠伸をしながら応えました。

「それになんだか少し・・・寒いです・・・・」

白い仔羊は冷たく吹く風にブルリと身を震わせます。

「・・・私達は食用羊、羊毛羊さんたちと違ってモコモコの毛皮を持っていないからね。」

――それに今までは、皆と一緒に固まっていたから、寒いなんてあまり思ったこと、なかったわね・・・・。

すると、そう返事をした姉羊の目が市場の方向へと向けられました――

「・・・・誰か、来るわ。」

姉羊の声に、白い仔羊の小さな耳が、愛らしくピクリと動きます。

「二匹で・・・お喋りをしています・・・・」

見ると、自分たちより全然大きな影が二つ、どんどんコチラへと近づいてきます。

親切な人だったらいいな――白い仔羊はそう思いました。
もしそうだとしたら、自分と姉羊を市場の兄弟達のところへ連れて行ってくれるかもしれないからです。

二匹は自分達の望みを、その通りすがりの二人に託すことにしました――どうせこのままこの木箱の中にいても、寒い夜を越せるかどうかすら定かではないからです。
お腹もだんだんと空いてきました――二匹は美味しい飼料と牧草地の栄養たっぷりの草と・・・お母さん羊のお乳が急に恋しくなりました。
餓えと寒さが二匹を襲いはじめた頃、のんびりゆっくり歩いていた大きな二つの影の姿が、少しずつですがはっきりと見えてきました――



二匹の狼は街から森へ帰る途中でした。
腕っ節が強い二匹は、街で用心棒をしたり、時には賞金首を捕まえたりして生活をしていました。
バンダナがトレードマークの狼は普段は北の森に住んでいました。寡黙で眼つきが悪く、孤独を好むこの狼は、以前は魔法使いの弟子でもありました。
彼は気ままに稼いで静かな時間もたっぷりと享受できる今の生活が気に入っているようでした。
バンダナ狼と一緒にいる白い狼は普段は東の森に住んでいました。狼にしては珍しく柔和な彼は賢く、器用で――何でもそつなくこなすことができました。
唯一つ、料理を除いては。白い狼は早いとこ良いお嫁さんが欲しいと思っていました。

二匹は今日、久し振りに街で出くわし――積もる話をしながらのんびり帰途についている途中でした。


そしてもうすぐ北の森と東の森の別れ道――そんな小道に差し掛かったとき――バンダナ狼はキュンキュンと寂しそうな鳴き声を耳にしました。

「・・・おい、先の道端に何かいるぞ?」

「おや、本当だ・・・何かいるね?」

二匹は顔を見合わせると、小道を駆けてゆきました――見るとそこには小さな仔羊が二匹――餓えと寒さに震えておりました。



「・・・羊だな」

バンダナの狼は自分の足元で目を白黒させている仔羊を見下ろしながら言いました。

「羊だね・・・可愛いなぁ。」

白い狼は目を細めながらしゃがみ込み、白い仔羊と黒い仔羊を見比べました。

「ねぇ、俺、こっちの黒い方を貰ってもいいかな?」

白い狼はバンダナ狼を見上げながら訊ねました。
二つあれば半分こ、二匹の間ではそれが当たり前のことでした。

「別にいいけどよ・・・・食うのか?」

どっちも細くて喰いでが無さそうだけどよ・・・・――バンダナ狼が二匹の仔羊を睥睨すると、白い仔羊はおどおどと黒い仔羊の後ろに隠れてしまいます。

「まさか!きっと売るには脂肪が足りないから捨てられたんだよ。けど、こっちの黒い方は器用そうだし・・・・」

白い狼は二匹の仔羊を木箱から掴み出すと――片や恐怖で、片や諦めで、すでにすっかり大人しい二匹をバンダナ狼の目の前にぶら下げました。

「・・・・俺に美味い飯を作ってくれるようになるかもしれない。でも、こっちの白い方は、なんだかかなり大人しそうだから・・・・」

――君の好みだと、俺は思う。

白い狼はさも当たり前のようにそう言うと、白い仔羊をバンダナ狼に手渡しました。

「そう・・・か?」

「そうだよ。」

バンダナ狼は、生まれて初めて目にする狼に吃驚して眼に涙を浮かべながらすっかり固まってしまっている白い仔羊をマジマジと見つめながら――
俺の好みって何だっけ・・・・と一人反芻する有様です。


一方、姉羊の方は――これが妹羊とのお別れの時だと瞬時に悟り、サヨナラを言おうと首を伸ばしたそのとき――

「じゃあ、俺は早速東の森に帰って――コイツに飯作ってもらうから。」

またね・・・・!――白い狼はバンダナ狼に爽やかにそう言うと、黒い仔羊を片手に東の森へと去ってゆきました。
黒い仔羊は掴まれて攫われていく中――バタバタと暴れながら何かを叫んでおりましたが、
バンダナ狼の鋭い眼光にすっかり萎縮してしまっている白い仔羊には、最早何も聴こえませんでした。

「おう・・・・」

白い狼に生返事をした後、バンダナ狼も――白い仔羊を抱えなおし、自分の森へと帰ることにしました。

肉にするには少なすぎ、羊毛を取るにはその毛が繊細過ぎるこの仔羊の使い道が、バンダナ狼にはさっぱり分かりませんでした。






バンダナ狼は小さな白い仔羊を肩に乗せて森の中へと入っていきました。
森に入る前も、森に入った後も、道中仔羊は時折哀しげな声をキューンと出すだけで・・・・後は石のように一言も話しません。
もしやコイツは口が利けないんじゃないのか・・・・――そうバンダナ狼が思ったほど、白い仔羊は静かでした。

「・・・・・」 

「・・・・・」

そして互いに無言のまま、狼の山小屋が見える辺りに差し掛かったそのとき――不意に、狼の肩口が何か温かい雫で濡れました。
狼がぎょっとしながら仔羊を掴み下ろすと――小さな白い仔羊は、その大きな瞳一杯に涙を溜めながら、シクシクシクシクと泣いておりました。

「な、なんで泣くんだよ・・・!!」

仔羊の突然の涙に大いに慌てた狼が、思わず声を荒げると――仔羊はビクリと体を震わし、とうとう声を上げて泣き出してしまいました。

「私・・・・一人になっちゃいました・・・・・!」

狼の腕の中でオイオイと泣く仔羊の声に、森の動物達が何だ何だとチラホラ顔を出してくる始末で。

<まぁ、狼さんったら・・・あんなに小さな仔を泣かして・・・>

<いったいどこから攫ってきたんでしょうね・・・?>

お喋りな小鳥達のそんな囀りも頭上から聞こえてきたので、蒼くなった狼は仔羊を鷲掴むと、脇目も振らず一目散に自分の山小屋を目指しました。







狼の家で――仔羊は生まれて初めて暖炉の火のぬくもりを知りました。
今日まで、仔羊は兄弟達との押し競饅頭の暖かさしかしりませんでした。
仔羊は本当に久し振りに、お腹一杯ミルクを飲ませて貰いました。
普段は兄弟間の生存競争のビリッケツが定位置だった仔羊は、いつもほんの少しのミルクにしかありつけませんでした。

そして仔羊は――目の前にいる狼は見た目ほど怖い存在ではないことを、なんとなく理解しました。

狼は、寒くないかと訊いては暖炉の薪をくべてくれ、腹は減っていないかと訊きながらミルクと、美味しい玉蜀黍を出してくれました。

暖炉の前でピチャピチャと愛らしくミルク皿を舐める仔羊を、途方に暮れたように遠巻きに見ながら・・・・狼は仔羊の小さな体の動きが、どこかぎこちないことに気がつきました。

狼は徐に立ち上がると、部屋の片隅に置いてあるチェストの中から魔法の鏡を取り出して、その中に小さな仔羊を映し出してみました。
――すると、鏡に映る仔羊の周りを、キラキラと――魔法の欠片が渦を巻いています。


「・・・・おい、お前、以前どこかで魔法をかけられたのか?」

狼からの突然の問い掛けに、仔羊は一瞬目を瞠りましたが――

「は、はい・・・あの、今日・・・荷馬車に乗せられる前に・・・・」


仔羊はおずおずと小さな声で答えました。
市場へ売られていくときに羊たちは皆、たくさん荷馬車に乗れるように、一時的ではあるにしろ、その姿を魔法で小さな仔羊に変えられてしまうのです。

そんな仔羊の答えを聞いた狼は一瞬の思案の後――彼はもう一度チェストを探ると、今度は久し振りに魔法の杖を取り出しました。

そして不思議そうな顔をしている仔羊の前で、その杖を文字を画くように動かし――呪文を唱えました。


「Heb' auf (解除) !!」


するとボワン・・・と仔羊の周りに煙が立ち込め――晴れた紫煙の中から現れたのは、スレンダーな美しい羊の姿でした。

彼女の姿は確かに――食用羊としては痩せすぎで、食べ応えがなさそうです。しかし――


「なんだ・・・・美味そうじゃねぇか・・・・」


狼は虚を衝かれたかのように刹那、目を丸くした後――ペロリと小さく舌なめずりをしました。

するとそんな狼の言葉に――目の前の愛らしい羊はその大きな瞳をキラキラと輝かせました。


「私・・・・美味しそうですか!?」


彼女の柔らかな羊毛に半ば埋もれている可愛らしい尻尾が――ピクピクパタパタと振られる姿も、とても美味しそうに狼には見えました。





「あぁ、とても美味そうだ・・・・」


狼はベッドに腰掛けると、羊に隣へ来るようにとポンポン・・・・とシーツを叩きました。
羊は喜び勇んで跳ねるように駆けてきて、チョコン、と愛らしく狼の隣に座りました。


「あの・・・・私・・・・美味しそうだったら・・・・その・・・・」


羊は頬を紅潮させながら、もじもじおどおど狼に訊ねてきます。
その瞳にはどこか期待が篭っていました。


「ちゃんと市場で売れるでしょうか・・・?」


羊の、少し高くなった声や、柔らかそうな手足や、愛くるしい貌にご満悦だった狼は――羊のその問いに思わず固まってしまいました。
そんな狼の様子に頓着せず、羊はさらに続けます――


「そしてせめて・・・・マトンカリーくらいには・・・なれるでしょうか?」


あの・・・・ケバブでも、いいんです・・・・ダメでも、ソーセージくらいには・・・・――羊はポッと頬を赤らめながら、狼を見つめてきました。


その瞳はもう一度、純粋に問い掛けてきます――私、どのくらい美味しそうですか?と。

一方、狼はクラクラと眩暈を感じてしまいました――確かにこの仔は食用羊です――
――しかし、ここまで徹底的に食用羊だとは、普段羊との付き合いのない狼は思ってもみませんでした。
狼は暫く二の句を告げることができませんでした――すると羊は――狼が食用羊の事をよく理解していないと思ったのでしょうか、自分の家族について一生懸命話だしました。

「あの、私の父様は、それはそれは立派な食用羊で・・・大公様がお召し上がりになる極上マトンステーキになったそうなんです・・・!」

「それに・・・私の叔父様は羊の丸焼きになる栄誉を市長様から賜り・・・・」

「先月、市場へ行った兄様方は街のお祭りのジンギスカンに・・・・そうそう、先々月の姉様は、なんとスペアリブになることができたんですって・・・・!」


凄いですよね・・・・!?――羊はウットリと、無邪気に、誇らしげに家族の末路を語っていきました。

狼はズキズキと痛む頭を抱えながら、とりあえず目の前の無垢な食用羊をどう調理しようか考えていました――
このまま普通に話を続けていたのでは、彼女は先祖の調理メニューを延々と語りかねません。すると狼はふと――当たり前の疑問に行き当たりました。


「で、私は・・・・小さい頃からバーベキューかシチューになることが夢で・・・・」

「・・・・おい、お前。お前たち食用羊が料理になる前にどうされるのか・・・お前は知っているのか?」



羊の言葉を遮りながらの彼の問いに、羊は気分を害することもなく、「はい・・・!」と満面の笑みで返事をしました――狼の眉は再びへの字になってしまいました。


「まず、市場へ行って、ご主人様に買われます。そして何のお料理になるかのお告げを受けて・・・それからお肉屋さんへいくのです。」


羊は身振り手振りで一生懸命説明します。


「お肉屋さんでお祈りをしながら待っていると、順番が来て・・・・最初は、ちょっと痛いみたいですけれど、スッっと体が涼しくなって、フワリと浮き上がるような気分になって・・・その後はずっと天国だって、母様が言っていました。」


一人前の食用羊だったら、ちゃんと天国に行けるんだって・・・・まっとうな値段で買われて、残されずにどなたかの胃袋にきちんと収まる事が、最高の栄誉なんです――


「・・・・・・・・」


“ちょっと痛い” のは首を切られるからです。“スッと体が涼しくなる”のは、体から血が溢れ出るからです。“フワリと浮き上がるような気分になる”のは、その魂が天に召される合図です――そして確かにその後はずっと・・・・天国です。
そんなことを真摯な表情で語る羊を、狼はだんだん憐れに思えてきました。
この羊は、外の世界を知りません。
夢はお肉になって網の上で焼かれるか、お鍋でコトコト煮られることだといいます。

狼はもう一度――羊を頭のてっぺんから爪先までマジマジと観察しました。
真っ直ぐに長く、シルクのような光沢を放つ濡れ羽色の髪はしかし、生糸を紡ぐには弱すぎるように見えました。
白く、柔らかそうなその肌は、食べるにはやはり脂が少なく、鞄にするにも硬さが足りないような気がしました。
胸と腰を覆うフワフワと手触りが良さそうな羊毛は――セーターを作るには繊細すぎ、少なすぎます。

「・・・・ダメだ、お前は売れねぇよ。」

期待に満ちた瞳で狼を見つめてくる羊に、狼は溜息混じりに言いました。
すると羊は一瞬、キョトンとした表情をすると・・・・パタパタと嬉しそうに動いていた愛らしい耳が、哀しそうに萎れました。
狼をジッと見つめてくる大きな瞳にウルウルと涙が溜まりはじめます。


「あ、あの・・・・市場へ連れて行ってくだされば、きっと・・・・安くても・・・・」

「生糸も脂肪も肉も皮も羊毛も採れねぇ羊、誰が買うんだよ。」

狼の正直な言葉は、羊の心を深く深く抉りました。羊は放心したように、ベッドの上から動けません。

「それに、たとえ売れても二束三文で・・・・お前売ってそんな金手にしても、後味が悪りぃだけだしな。」

ガリガリと頭を掻きながら仕方なさそうに言った狼の言葉に、ついに羊は大粒の涙を零し始めてしまいました――
“後味が悪い”――そう言われてしまいました。それは食用羊にとって“不味い”と言われたのと同然です。
羊は自分の食用羊としての存在も尊厳も――全て否定されたように感じて、その繊細な心はボロボロに傷ついてしまいました。
目の前でこの世の終わりかのような面持ちでさめざめと泣く羊を困ったように見下ろすと、狼は自分のシャツの袖のボタンを外しながら羊に問い掛けました。

「なぁ・・・・・お前、そんなに誰かに喰われたいのか?」

狼の言葉に、羊は顔を上げることなくコクコクと頷きました――誰かに美味しく食べてもらう――それが食用羊にとって、最大の幸せなのですから。

狼はシャツのボタンを外し、額のバンダナをハラリとベッドの下へ落とすと――徐に、目の前で涙に咽ぶ濡れ羊を抱き寄せました。
狼の突然の行動に羊は驚いて反射的に彼の腕を掴んでしまいましたが――羊の頬に顔を寄せ囁いた狼の言葉が、羊に一筋の希望を与えました。


「それじゃあ俺が・・・・お前のことを喰ってやるよ・・・・」


羊の涙はピタリ・・・と止まり――

「本当・・・・ですか・・・・?」

と、狼をおずおずと見上げてきます。


「あぁ、本当だ・・・・」


――今から早速・・・・喰ってやる――


狼が味見をするように羊の頬をペロリと舐めたので、羊は擽ったそうに目を細めました。
あぁ、この狼さんは良い狼さんだ・・・・――羊は彼女の髪の匂いを確かめるように嗅いでいる狼を見上げながら、心の底から思いました。
彼は市場では売れないような出来損ないの食用羊の自分を、食べてくれると言っています――こんなにも優しくて親切な狼は、世界中の何処を探したっていないだろうと羊は思いました。


「あの・・・・それじゃあ・・・お肉屋さんへ・・・・」


「その必要はない。」


早く街まで行かないと閉まっちゃう――そんな羊の心配をよそに、狼はサラリと言いました。


「俺は、肉屋と同じようなことができる・・・・」

狼は羊の肩に掛けてある右手で、彼女のふくよかな胸を鷲掴みました。

「ア・・・・!」

痛いような、疼くような初めての感覚に、羊はビクリと身を竦ませました。そして柔々と乳房を揉まれる感触をどこか不思議そうに感じながら――魔法が使える狼さんは、きっと何でもできるのだと、一人納得するのでありました。

「あ、あの・・・・私は・・・何のお料理に・・・・?」

知らず知らずのうちに上がる息の中で羊が躊躇いがちに訊ねると、――俺は生が好きなんだ・・・――とクツクツと笑う声が耳元で返ってきました。
生ハムか干し肉にされるのかしら・・・?――羊がぼんやりとそんなことを思っていると、狼の手が羊の脚をその感触を味わうように触り始めました。


「狼さんのおてては・・・・とても大きなおててですね・・・?」


羊はその擽ったい感触に耐えるように、少し脚を閉じました。


「お前の躰の隅から隅まで、余すところ無く触るためさ・・・・」


狼は目を細めながら応えました。


「狼さんのおめめは・・・細いけれど、とても綺麗なおめめですね・・・・」


羊は眩しそうに狼を見つめました。


「お前の美味しそうな処を・・・・じっくりと探すためさ。」


狼はニヤリと笑いました。その口元から、キラリと光る犬歯が見えました。


「狼さんの歯はとても鋭そうですね・・・?」


羊は珍しそうに狼の口元にそっと触れてました。


「お前の柔らかそうな肌を、しっかりと堪能するためさ・・・・・さあ、お祈りとやらを始めろ、羊。」


そう言うや否や、狼は羊をコロリとベッドの上に転がしました。


「天国へ・・・・連れて行ってやる・・・・」

耳元でゾクリとするような声で囁かれ――羊は慌てて目を閉じて、お母さん羊から教わったお祈りを心の中で何度も何度も、唱えました。
羊が一生懸命お祈りをしている間、狼は羊の肌をたっぷりと味わいました――
――滑らかな白い肌に所有の印を落とし、程好い大きさの胸元を存分に舐め、柔らかな耳を悪戯に食みました。
何も知らない無垢でか弱い羊が、初めての感覚に戸惑い、震えながら――汗と唾液と愛液でヌラヌラと濡れ、横たわる様は、狼にはとてもとても美味しそうに映りました。

濡れ羊はその唇までしっかりと、深く、深く、味わわれ・・・・訳が分からぬまま恍惚とした表情で息を乱していると、狼が羊の頬を緩く噛みながら言いました。

「少し・・・痛むぞ。躰の力を抜け・・・・・」

あぁ、いよいよだ・・・――羊はコクコクと頷きながら、狼に身を任せることにしました。
この痛みの後にはきっと、天国へ行けます――先に売られていった親兄弟や親戚、そして運がよければ昼間別れた姉羊にも会えるかもしれません。
それもこれも全て、この優しい狼のお陰です。

「狼さん・・・・」

濡れ羊はそっと、狼の顔に手をあてました。狼は片眉を上げながら彼女を見下ろします。


「ありがとう・・・・ございます・・・・こんな私でも、食べてくださって・・・・」


羊はそう言いながらとても美しく微笑むと、躰の力を抜いて、目を瞑りました。


「・・・・・・・」


狼は何も言いませんでした。
ただ、慈しむように――その羊の額に一度、キスを落としただけでした。



やがてその細い躰の中心を――裂くような痛みが羊を襲い――その後のことは羊はあまり覚えてはいませんでした。

啼きながら、そのぬくもりに縋るように、狼の背をあらん限りの力で抱きしめたような気がします。

ただ、話に聞いていたように、“スッと体が涼しくなる”ことはなく――全身が燃えるように熱く、羊の心を翻弄したことは、その痩躯がはっきりと覚えていました。

揺さぶられ、貫かれ――やがて、“フワリと浮き上がるような”感覚に導かれ――羊は意識を飛ばしました。


目を閉じる瞬間、狼の、少し苦しそうな顔が羊の瞳に映りました。


羊は思いました――



――あぁ、もう少し・・・・狼さんと一緒にいたかったな・・・・












チュンチュンと囀る雀の声に導かれるように、羊の意識はゆるゆると浮上しました。

目を開けると、逞しい躯が目の前に横たわっていました――狼です。
狼は羊の目の前でグーグーといびきを掻きながら気持ち良さそうに寝ています。

羊は一瞬、狼も一緒に天国へ来たのかと思いました――

しかし辺りを見回してみると――そこは狼の山小屋でした。

羊がそっと身を起こし、キョロキョロと辺りを見回していると――

「――!!」

突然、その細い腕をグイッと引かれ、羊は再びベッドへと沈められました。

そして狼の腕の中にスッポリと包まれてしまいます。


「・・・・・・・美味かったぜ。」


狼の唐突な行動に吃驚しながら目を白黒させていた羊の耳に、天にも昇るような言葉が呟かれました。


「・・・・・ァ・・・・」


羊は心が一杯になりました――天国へ行くということは、こういうことだったんだ――そう羊は小さな頭の中で理解しました。
売れない羊の自分も“美味しかった”という言葉を貰う喜びを知ることができ――これでやっと、一人前の食用羊になれたと、濡れ羊は思いました。


「ごちそーさん」


自分の腕の中で嬉泣きをする羊をからかうかのように、狼がそう囁くと――小さく愛らしい耳が再びパタパタと・・・・可愛らしく動きました。


腕の中の小さな存在に――狼は久し振りに絆された自分の心を少し滑稽に思いながらも、きっと自分はもう・・・・この羊を手放せないだろう――
そんな気持ちを戸惑うように反芻しながら、自身に苦笑しました。


そして羊は狼の腕の中で――最後の望みが叶ったことを、単純に喜んでいました。

自分はもう少し、この優しい狼さんと一緒にいられそうです。

戯れに耳を食んでくる狼に擽ったそうな、無邪気な表情を返しながら・・・・羊はその幸せ色のぬくもりの中に身を沈めました。




それからのバンダナ狼と濡れ羊がどうなったかは、

また、別のお話。






Fin.




士マド萌え話v→いつの間にか狼羊登場→エスカレートv→吃驚美麗萌イラスト降臨!!→もうこれはお話つけるっきゃない!!→お話完成!!→さらにイラストver.UP..!!
・・・士度×マドカへの底無し無限大の愛から生まれた夢の合作メルヘンでございますv@羊狼祭実行会☆恐るべし萌Powerのありがたき相乗効果...!!

お宝絵にお話をつけることを心良く許可してくださった神絵師pome様に心からの感謝と尽きぬ尊敬を・・・!!o_ _)o))
そして士マド@羊狼話のこの作品を最後まで読んでくださった閲覧者の皆様、多謝でございました・・・・!!
製作途中も心躍っていましたv少しでもお気に召していただければ幸いですv(*´∇`*)