つい先程まで明るい太陽の光を二人に注いでいた天窓からは、周りの音を掻き消すほどに激しく打つ雨音が聞こえてくる。
初夏の清清しい暖かさを伝えてきていた小屋の板と板の隙間からは、しっとりと水に濡れた緑の香りが緩く流れる。
二人が身を預けている藁の匂いも雨の空気に煽られて、心なしか強くなったような気がする――
「――ッ!!〜〜!!・・・・!!」
山積になった藁の上に敷かれた士度のジャケットの上で――マドカは声にならない悲鳴をそのまま彼に飲み込まれながら、震える手で彼のシャツを力の限り握り締め――両の腕を精一杯伸ばしながら、その鍛え上げられた体躯に縋った。
今、今――声を出してしまえば・・・・
(――ァ!!や・・・・・ッ!!)
クチュリと卑猥な音を立てながら――たくし上げられた白いスカートの下で彼女の内側を愛撫していた武骨な手に力が篭められると、マドカは漆黒の瞳を大きく瞠り、柔らかな喉元を露にしながらその痩躯を切なげに震わせる――ホワイトレースのガーターストッキングに包まれている彼女の小鹿のような足がレースのベルトと共にフルリと揺れた。
快楽の余韻に身も心も支配され、その眦に恍惚の涙を薄らと浮かべながらクタリと躰の力を抜いた彼女に与えられるのは、緩く角度を変えながらあやすように無言に語る甘い
透明な糸を引きながらゆっくりと離れていく唇の間で、刹那新鮮な空気を求めるように音無く喘いだマドカの丹花は名残惜しそうに士度を誘う――次の瞬間、下肢から彼の人の手が唐突に引き抜かれ――途端に空虚になった身の内に戸惑う己の心に、彼女の頬は自然と朱に染まった――シャツの下から香る彼の汗の匂いがまた少し近くなる――冷たい空気に擽られるように晒され震えている躰の中心を恥じ入るように、マドカがその細い脚を閉じようと身動ぎをすると――厚く、逞しい彼の手がその動きを制し、彼の大きな体躯が彼女の華奢な脚の間に割り入ってきた――そして紅色に染まった頬に軽く触れてくる、彼の唇。
(――!?嘘・・・・ッ!だっ・・・・・て・・・・・こんな・・・・・・士度、さん・・・・!?――〜〜!!)
彼の意図を瞬時に察し、マドカはその漆黒の瞳を驚きを隠さぬまま大きく瞠った。人の気配がする中で、まさか――最後まで求められるとは思ってもいなかったマドカは、はしたなくも狭く孔を空けながら濡れていた躰の入口に彼の燃えるような熱を感じ――唐突な恐怖と戸惑いで彼女が思わず身を竦ませたその刹那――マドカの白い頚筋から香る淫蕩な匂いに貌を埋めながら、彼はその身を力強く彼女の中へと進めた。
「――ァっ・・・・!!」
猛りながら侵入してくる確かな熱い衝撃と――身の内側を犯すように駆け巡った淫靡な感覚に思わず漏れた彼女の高く、濡れた声――
「――?あれ?今、上から何か聞こえなかった?」
――!!気づかれて・・・・!!――自分の喉から洩れた音と同じくらいやけにクリアに残酷に、階下から聞こえた無邪気な声が彼女の耳を犯し、心臓が止まらんばかりの羞恥心がその痩躯の熱を上げ、気が狂いそうになるほどに哀れにも早まる胸の下の鼓動――マドカは大粒の涙を溜めたまま、ギュッと眼を瞑り――そのまま叫び出したい声を唇を噛み締めることで懸命に堪えながら、救いを求めるように彼の肩口に貌を寄せた。
(マドカ・・・・)
しかし士度から返ってきたのは――熱い吐息と共に慈しむように囁かれた彼の漢らしい声と、零れ落ちる彼女の涙を拾うキス、あやすように彼女の流れる黒髪を梳く穏やかな愛撫――彼女の身を壊さんばかりに犯している千千に乱れる心の動揺は彼からは微塵も感じられず、それどころか彼は彼女に自らの存在を刻み付けるかのように、羞恥に震えるマドカの肢体を抱き寄せ、その逞しい体躯を華奢な細腰の奥へ沈めてくる。
(―――!!あっ・・・!!や・・・・〜〜!!――ァ!!)
いつもより熱く、重く、より確かな質量をもってマドカの身を内側から浸透するように焦がす彼自身。出せない悲鳴の代わりに彼に縋った彼女の細い指があらん限りの力で彼のシャツを掻き乱し、白く穢れの無い色で包まれた彼女の脚線は――彼がいつもよりどこかゆっくりと、確かめるようにその躯を動かしながら施す誘淫の官能を隠し切れずに震えていた。
「――何かな?子犬でもいるのかな・・・?オレ、ちょっと見てくるよ!!」
(――!!・・・・・!!)
――その梯子、結構高いから・・・・あ、なんだかバランスも悪いみたいだよ!銀ちゃん、大丈夫!?
へーきへーき!!――夏実に返した銀次の元気な声と共に梯子がギシリと鳴る音が――自然の中で大きく響く雨音を縫いながら、一歩、また一歩と上へと上がってくる。
見られてしまう・・・・!!――ブラウスの下で胸元を露にし、黒髪を散らし、スカートをたくし上げられて、汗塗れになりながら彼と繋がっている姿を――彼以外の人に!!
そう考えるだけでマドカの躰は羞恥と恐怖で瞬時に燃え上がり、その柔らかな肢体を胸の鼓動が意識を奪わんばかりに駆け巡る――士度を身に納めている蜜の入口も普段よりずっとずっと高い熱と彼の存在の大きさを彼女に刻みつけ、その柔らかな膣内ではその優しい凶暴さで彼女を拘束するかのようにドクリと脈打つ楔に細胞まで犯され――狂おしさが止まらない――
ヒクリと苦しげに――朱の印を扇情的に散らされた白い喉を震わせえると、階下の人達の声に凍りついたマドカを余所にその躰のラインを辿っていた士度の右手が徐に持ち上がり――その厚く大きな掌で彼女の桃色に染る頬にそっと触れてきた。彼女の小さな貌を包むその体温がいつもより高いと感じられたこと――ただそれだけのことで――マドカの心はキュンと甘い痛みに啼き、彼女は止まらぬ昂揚から零れ落ちる大粒の涙で濡れた唇を戦慄かせながら、彼の掌の中で小さく嫌嫌と頚を打ち振りながら――赦しを乞う様に彼の名を音無く呟いた。
そんな彼女とは対照的な、元気な声が納屋に木霊する。
――銀ちゃ〜ん、何かいる?
「うーん、藁が多いからここからじゃ・・・もうちょっと上がってみるね〜」
下から暢気に聞こえてくる夏実の声と、明らかに近くなった銀次の声にマドカの痩躯がビクリと揺れ――怯える小動物のように身を縮ませながら、士度のシャツを握る手に精一杯の力を篭めてくる。
(・・・・・・!!)
その刹那、二人の間に篭った
そして彼の唇が弧を描く気配――
その微笑の温度を感知する余裕などないままに――マドカは僅かに身を起こすことで縋るように彼の唇を求めた――
銀次が梯子の上でバランスを取る声を出しながら、もう一段――
ギシリと鳴る木の音、危ないよ〜――と心配そうな女の子の声、強がる知った元気な声、相変わらず天窓と地面を叩く雨の音――
交わる体液の卑猥な響き、微かに漏れる衣擦れの音、彼の熱い吐息、疾まる事を止めない私の鼓動―――
キスの狭間でついに
ギシリと再び梯子は悲鳴を上げ――
今、この瞬間・・・・どんな事が起こったとしても――

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10日間、マドカは海を渡り演奏旅行へ出掛けていた。
彼女の帰国日から5日間、士度は仕事で屋敷を空けた。
2週間のすれ違いの生活の後、深夜が近い時刻に士度がやっと屋敷に戻ってみれば・・・・マドカは自室でメイドと一緒にボストンバッグの中身を詰めていた――またどこかへ行くのかと問えば・・・・
――明日から2泊3日の予定で、HONKY TONKの皆さん達と牧場に行くって約束だったじゃないですか・・・!
――マスターがお店のミルクや野菜を仕入れている牧場で、ペンションも経営してるからって・・・・乗馬もできるそうですし、陶芸の先生もいらっしゃって・・・・でも、士度さんが疲れているなら・・・・私たちは別の日に・・・・・
疲れているのは正直否定できない状態であったが、そこで――そうだな、また別の日に・・・・――と言える程、士度は自己主張の強い人間でも、彼女の顔色が分らない人間でもなかった――なにより迂闊にもその予定が頭からスッポリと抜け落ちてしまっていて、前日まで仕事を入れてしまったのは自分の落ち度。
――明日は早く起きて・・・頑張ってお弁当を作りますね・・・!
士度さんが好きなもの、沢山入れますから・・・・――加えて彼女のこの台詞・・・・今夜は熱いシャワーでも浴びて、独りさっさとベッドの住人になる事がベストのようだ。
別に何を期待してたわけでもないが――マドカぐらいの年頃だと、まだきっと集団で旅行する事が楽しみで仕方がないのだろう――2週間振りの、アッサリとした再会も、互いが忙しいと、予定が混んでいるとこんなものか――どこか乾いた寂しさが刹那士度の心を通り抜けたが、メイドと一緒に楽しそうに旅行に着ていく服を選んでいるマドカの姿を見ていると――やはり疲れた心が洗われている自分に気付き、士度は苦笑交じりにおやすみを言った。そしてマドカからの愛らしい声に送られながら、その夜彼は早々に自室に引っ込んだ。
牧場・・・・に行くと言っていた。
久し振りに落ち着けた心地良い寝床にその体躯を沈めながら――肌を擽る夏の夜風に誘われるように、士度は眼を瞑った。
隣に誰かがいないのが――14日目の夜だった。
執事が運転する車に揺られること5時間――士度もマドカも車中での殆どの時間をまどろみながら過ごしたのだが――途中、マドカが早起きをして作ったランチ・ボックスを食べたりしながら(執事も誰かの手作り弁当を持参していた)、二人はとある高原牧場に到着した。そこには丁度同じ時間帯に着いたいつもの連中が既にいて――迎えに来る日時を告げた執事がにこやかにリムジンのエンジンを吹かせた直後、牧場の目の前に聳え立つ四階建ての北欧風の木造ペンションの方から――二人を見つけたはしゃぐ声が聞こえてきた。静かな高原の昼時にさっそくいつもの喧騒が鳴り響く。モーツァルトはご主人様と士度のお許しを貰ったので尻尾を振りながら――
一目でお友達になった牧羊犬達と共に一目散に緑の向こうに消えていった。
マドカが喫茶店の娘達と仲介屋と――何故か銀次も混じった中で久し振りの再会を女達特有の高い声で分かち合っている間――士度は受付で波児と蛮と肩を並べて、チェックインの書類に黙々と記入をしていた。
「ヘヴンちゃんから聞いたけど、昨日帰って来たばかりなんだって?」
四人分の名前の為にペンを走らせながら、疲れてるんじゃないかい?――と波児が小さく微笑みながら訊いてくる。
「別に・・・・大した事ねーよ・・・・」
何だ、柾は来てねぇのか――仕事が終わってから明日合流するってさ・・・・――士度がペンを置きながら波児に向かって小さく頷くと、次に飛んでくるのは蛮からのいつも通りの皮肉めいた口調。
「テメェ・・・最近稼ぎがいいそうじゃねぇか・・・・ヒモでいられるご身分ならいっそ奪還屋なんぞ辞めちまってこっちに仕事――」
「テメェ等はレッカー代と破壊費用を節約すればいいだけの話だって聞いたぜ?」
――ありがとうございます。冬木様、音羽様は四階のスイート・ルームでのご予約になっております。
額に青筋を浮かべながらの士度の台詞に続いて飛び出してきた受付嬢の明るい声に、蛮がボールペンを握り潰し――偽ブルジョアだの猿のくせにだの罵声を浴びせながら士度に掴みかかろうとしたが、寸でのところで波児に頭を沈められ、カウンターと口付けする羽目に――士度はそんな蛮の様子を受付嬢から鍵を受け取った瞬間から綺麗さっぱり無視して――小さな溜息を吐きながらお喋りに興じるマドカの元へと戻っていった。
「・・・・・広いな。」
取り合えず荷物を置きに宿泊する部屋へ二人で行ってみれば、そこはマドカの屋敷の居間よりも広い、小洒落たロッジ風の部屋。部屋全体に広がる木のぬくもりと座り心地が良さそうなソファが寛ぎの空間を作り出し、寝室のスペースには寝心地が良さそうなキングサイズのベッドがキルトのベッドカバーに包まれて上品に鎮座している。
「士度さん、お仕事の後直ぐにこの旅行だったから・・・・。お身体がちゃんと休まるように、木佐さんに良いお部屋を予約してもらったんです。」
――・・・・それに、久し振りに士度さんと一緒だから・・・・その・・・・・私も・・・・・・
士度さんとゆっくりしたいなって・・・・――最後の言葉は恥ずかしそうに小声で呟きながら、照れ隠しついでかマドカは士度が手に持つボストンバッグを受け取ろうとそっと腕を伸ばしてきた――すると彼女の指先に触れたバッグはスルリと後退し――少し勢いをつけながら、ボスン・・・・とソファに沈む音。
「そうか・・・・・」
「――!!」
彼の、そんな一言が耳に触れただけで、マドカの心は自分でも吃驚するくらいに揺らめき、震えた――彼の声に篭っていた――ありがとう、の気持ち。
士度が肩に掛けていた小振りのバックパックも小さな音を立てながら床に落とされたようだ――ゆっくりと上がる、彼の大きな手。
マドカは一歩、歩を進め、士度との距離を縮める――優しく、戯れに髪に触れてくる彼の指の感触に惹かれるように、マドカはもう一歩彼に近づき――その頬を彼の胸元に埋めた――彼の腕が自然と上がり、二週間ぶりの抱擁が彼女の心に染み入るように優しく包む――寂しかったんだから、本当は。
10日間、演奏旅行をして――マネージャーさんとはもちろん一緒だったけれど、他の共演者の方々ともリハーサルや仕事の後、一緒に外へ出たり、食事をしたりしたけれど・・・・・でもやっぱり寂しかった――
マドカクラスのバイオリニストとの共演となると、その演奏者自身もそこそこ名の知れた面々となり――そういった身分の演奏家は、海外公演に伴侶を連れてくるパターンも決して少なくはない。食事の席で、プライベートのお買い物で、ホテルのロビーで別れるときにも、知った仕事仲間が――奥様と、旦那様と、恋人と――仲睦まじくしている、そんな日常的な、しかし特別に愛溢れた気配を目の当たりにしてしまうと、一人ぼっちの自分がどうしようもなく淋しく感じられた。
そして独りになって想うのは――遠く日本の地にいる、彼の姿。
優しい人だからきっと、自分からお願いをすれば・・・・もしかしたら一緒に海を渡ってくれるかもしれないけれど――
彼はマドカが海外に公演に行くと言っても今まで一度も―― ついて行きたいといった類の言葉を口にしたことがなかった――気をつけて行ってこい――彼女を心配する言葉は紡いでも、彼女が向かう目的地に興味を示す素振りも、彼から今まで感じたことはない。きっとそれは――今を生きる日本人以上に――祖国であるその島国の土地と自然に根ざして――そして何より彼の部族の伝統と志に誇りを持って生きている人だから。
マドカは士度の――口にはせずとも真っ直ぐに彼の視線の先にある――そんな強く確かな
いつか――いつの日か―― 一緒に来てくれるようになるのかな・・・・・独りぼっちで寂しい海の向こうまで・・・・・。
「そうだな・・・・俺も・・・・・・」
お前と――マドカの想いを知ってか知らずか、士度の顔がゆっくりと降りてくる気配がしたので――マドカも自然、彼に支えられるようにしながら軽く踵と頤を上げて――
「マドカちゃん!!お馬に乗りに行こうよ!!」「士度さんも一緒・・・・に!?」
二人の唇が後刹那の距離で触れ合おうとしていたそのとき――レナと夏実がノックも無くいきなり飛び込んできたので――士度とマドカは互いに反射的にパッ身を離し――HONKY
TONKの娘たちの目に映ったのは、真っ赤に染まった貌を恥ずかしそうに手で押さえながら――今、行きます・・・・――とやっとのことで呟いたマドカの姿と、床に転がるバックパックを拾い上げ、突然の訪問者に背を向けたまま寝室に入っていく士度の姿。
「え・・・と・・・・・」 「お邪魔・・・・だったかな?」
自分達の出歯亀振りに気がついた夏実とレナは、やはり顔を赤面させながら――それでもどこか嬉しそうに――ゆっくりでいいんだよ・・・・?とマドカに意味深な笑顔を送った。
「いえ・・・・今行きますから・・・・ね、士度さん・・・・?」
「ああ・・・・・」
マドカに促され手ぶらで戻ってきた士度の様子を見て、突然の乱入者達は好ましく口元を綻ばせながら、悪かったけれど珍しいものを見たと、悪戯っ子のように目配せをし合った――普段は堅物そうなマドカちゃんの彼氏だって――顔を赤らめることがあるのだ――例えば、こんなときに。
「馬って・・・農耕用の馬には乗ったことがあるがな・・・・」
――こんな上品な馬には乗ったことねぇよ・・・・
乗馬経験はあるかとペンションのオーナーに訊かれ、数頭のサラブレッドを前にした士度のこの発言に波児やHONKY TONKの面々は苦笑し、蛮は一人大笑い。
それでもマドカは馬の顔を撫でながら眼を輝かせている――そして士度に向けられたその見えない視線は語る――早く乗ってみたいです――と。
「それじゃあ、乗馬を一番楽しみにしているお嬢さんとその彼氏君から、乗馬の基本動作を・・・・・」
オーナーの台詞が終わるか終わらないかのうちに、お客達の目の前でオレがオレがと押し合いへし合いしていた馬達の中から競り勝った一頭が、士度の目の前に誇らしげにやってきた。
馬達のいつにない興奮振りにオーナーは不思議がりながらも、士度の目の前にやってきた黒毛の大柄なサラブレッドに手早く馬具を取り付ける。
「サラブレッドは体高があるから初心者は乗るところから苦労するので・・・・」
士度は鐙に足を掛けると、ヒラリと一度で馬に跨った。
「・・・・・じゃあ、お嬢さんは背が低いから、何か台を・・・・・・」
士度に向かって伸ばされたマドカの腕を士度は片手で支えると――彼はそのままマドカを持ち上げ、自分の前へと座らせてやった。
地から足が離れ、大きな生き物の上に彼と一緒にいることを――マドカは単純に喜び、はしゃいでいる。一方士度の方は、彼女が落ちないように手の位置や彼女の身体の位置を修正することに余念がない。
「・・・・・では、ウォーミングアップにこの馬場を数周して・・・・・あとは向こうの柵の中で・・・・・」
<馬場を数周と柵の中だと・・・・?冗談だろ?>
<そんなジョウダンめいたことを、ココのレンチュウはマイドマイドホンキで、おれらにメイレイするんだぜ?>
士度と黒毛の馬はそんな会話を交わしながら、とりあえずパカパカと馬場を回り始めた――徐々に、徐々にスピードを上げながら。女性陣と銀次の感嘆の声が馬場を木霊し、波児も感心したように士度と馬の動きを追っている。蛮は一人関心がないように煙草を取り出し火をつけ始めたので――待機している他の馬達がのその煙に鼻を鳴らした。
士度の目の前でマドカは心底楽しそうに声を上げている。
「私、子供の頃ポニーに乗せて貰って・・・・手綱を引いて頂いて馬場を数周しただけだったので・・・・こんなにスピードが出るお馬さんに乗るのは初めてです・・・!」
「マドカ・・・・馬って生き物はこんなもんじゃ・・・・・」
しかし士度は説くより早いと思ったのか――馬場を数周したついでに波児に陶芸教室が始まる時間を訊くや否や黒馬に指示を出した――黒馬は華麗に馬場の柵を越え――士度はキャァ!と黄色い声を出すマドカの反応を気分良く感じながら――オーナーが指し示した乗馬用の柵も難なく越えて――そのまま牧場の方へと馬を走らせた。
風のように去っていった黒馬と本格的な乗馬は初だと言っていた青年の手綱捌きに、当のオーナーは呆気に取られながら今は点としか見えない愛馬をぼんやりと見つめている。
「・・・・柵越えは上級スキルなんですけどね・・・・・」
彼の場合はね・・・・特別なんだよ――笑いを噛み殺しながら波児は少し得意げにオーナーの視線の先を追った。彼のサングラスに、サラブレッドが後ろ足で立ちながら伸び伸びと嘶いている姿が影絵のように映る――走れ、走れ、若人よ――ついでに今日は自分も久し振りに――緑の風を感じに行こうか――
馬っ鹿、乗馬なんざ簡単なんだよ!!俺もマリーアの処にいるときなんざ時折優雅にだな・・・・・!!――波児が蛮の喧騒に振り向いたとき、まさに彼は白馬に振り落とされるところだった。この馬は相性が悪いと別の馬の手綱をとれば、あらん限りの力で頚を振られ、騎乗することすらままならない。
「・・・・蛮ちゃん、なんだかお馬さんたちに嫌われてるみたいだよ・・・・・」
「いやこれは・・・・こいつらに猿マワシがきっと何かを吹き込ん――!!」
蛮が馬達と悪意ある戯れをしている間に、夏実もレナもヘヴンも波児も――それぞれ相性の良い馬を見つけて馬場で練習中。
「さっきアンタがお馬の隣で煙草吸ってたからじゃないの〜?」
馬って案外頭が良いんだから――白馬に乗ったヘヴンが通りすがりに蛮を見下ろしてきた。
「士度さんそこまで性格悪くないですよぉ?」 「ねぇ?」
銀ちゃん、私と一緒に乗ろうっか〜?――夏実に誘われて喜び勇んだ銀次は蛮を置いて一目散に彼女の馬に跨る始末。
結局蛮は―― 一番寛容だった老馬に跨り、ポニーよろしく馬場や柵内を不本意にものんびり散歩するに留まった。
それも、馬上が気持ちよくなった頃合に無意識にポケットから煙草を取り出して火をつけ――その老馬に振り落とされるその時まで。
一時間弱程で――士度とマドカは牧場を一周して帰って来た。野を走り、草原を回り、牛や山羊や羊に挨拶をして――黒馬も久し振りに思う存分疾走することができ、満ち足りた様子でどこか生き生きとしていた。
走る馬の上で普段とは違う高さで、スピードで風を感じるだけで、マドカは満足だったのだが――後ろで自分を支えてくれている彼が、言葉足らずにも馬上から見える景色を語ってくれたので――軽やかな初夏の風を感じながら、マドカは幸せに染まる心とめくるめく世界を、頭上に広がる空の高さと同じくらい晴れやかに感じることができた。
――士度さんと一緒だと・・・・私の中の世界が変わっていきます・・・・・・
馬場までのゆっくりとした帰り道、マドカがポツリと呟いた言葉に士度は眼を丸くした。
――・・・・・そりゃあ・・・・大変だな・・・・・
応えるべき言葉を捜しあぐねた彼からのそんな答えに、マドカの口元がフワリと綻ぶ。
――それはとても・・・・・素敵なことなんです・・・・
手綱を持つ彼の手にそっと触れてくるマドカの細い指先や、顔を上げ、漆黒の瞳で見つめてくる愛らしさは抱き締めたくなるほどに士度の心を疼かせたのだが――残念ながら馬場は直ぐ其処、戻ってきた二人に気付いた銀次が派手に手を振っている――
「・・・・・そうか」
こういう時にこそ、きっともっと気の利いた言葉をかけてやるべきなのだろう――そうは思いながらも、相変わらず言葉が足りない自分に辟易しながら士度は静かに呟いた。
「はい・・・!」
それでもマドカは幸せそうに返事をする――いいのだろうか、こんな男で。
<・・・・・イインジャナイノ?>
士度の真意を読み取った黒馬が、可笑しそうに嘶く。疑問符を浮かべるマドカの後ろで、士度は少し困った顔をしながら手綱を鳴らし歩を早めることを促した。
例えば、こんなときに――ふとしたことで分らなくなる――想いの距離が。
「今日はいらっしゃらないのですか・・・・・」
陶芸の先生――陶芸の時間に間に合うように乗馬を終えてきた二人だが、全員がロビーに集合した際に告げられた突然の予定変更。何でも風邪をこじらせて――とてもじゃないが出てこられない状況に陥ってしまったらしい。女性陣の残念がる声がロビーに響いた。
「夕飯まで皆さんの時間が空いてしまい大変申し訳ないのですが・・・・・当ペンションの一階にあるレクリエーション・ルームのスクリーンを降ろして映画をお楽しみになられるのも良いですし、お好みならばビリヤードや卓球もございます。別棟にはミニ・プラネタリウムが・・・・・」
オーナーのその言葉に、一同の視線は自然とマドカの方に申し訳なさそうに流れた――これでは、盲目のマドカが楽しめる娯楽とはあまりにも言い難い。
しかし――
「散歩にでも行くか・・・・?」
「はい・・・・!」
さっき歩くのに丁度良さそうな小道を見つけたしな――路の向こうから聴こえてきた鳴き声が山羊さんか羊さんか・・・・確かめに行きたいですし・・・・!
そう当たり前のように彼と彼女は言葉を交わしあいながら、外へ出る準備をし始める――そのとき――ヘヴンは感心するような小さな声を出しながら何やらマドカに耳打ちをし、彼女のポシェットに何かを滑り込ませた。ありがとうござます・・・・!――そうはにかみながらマドカはペコリと会釈をし、彼と共に再び日差しの下へ出て行った。傘・・・・持ってるか?――この日傘、雨傘と兼用になりますけれど・・・・・――そんな会話が小さく、居残り組の方に聴こえてくる――
「・・・・・・・傘?」
銀次が窓から空を見上げた――白い雲と青い空のコラボレーションが素晴らしい、日本晴れのこのお天気に、傘?
一勝負いくか・・・・?――
蛮が波児を誘う声がする――久し振りに、いいかもね・・・・――今度士度君にも教えてあげたら?彼、いい線いくかもよ?――ウルセェ・・・・・
恋人達を見送った後の大人組の会話に、夏実とレナと銀次も気を取り直したようだ―― 一向はお喋りをしながら、レクリエーション・ルームへと消えていった――そして再びロビーは、静かになった。
道すがら、山羊や羊達とお喋りをしたり――花を愛でたり――時折立ち止まり鳥の声や風を感じたりしながら――二人はゆっくりと牧場を巡る。
彼女がさしている白く少女らしい日傘が時折優雅にクルクルと回る様が、マドカの躍る心を代弁していた。
小一時間程歩いた頃――士度が徐に空を見上げ――もう少しで一雨来るだろうから何処かで休もうと提案してきた。マドカは不思議そうに立ち止まり、空気の匂いを嗅いでみたが―雨の前の湿った匂いはまだ感じられず、カラリとした良いお天気だ。
けれど自然と経験で培われた彼の天気予報は外れた例が無い――どこか雨宿りできそうな場所がありますか?――そうマドカが問うと――士度の視線は散歩道の向こうに見える大きな納屋に向けられた。
「藁の匂いで一杯で・・・・気持ちがいいです!!」
天窓近くに上げられた藁の方が良く乾燥したものが多いだろう――そんな士度の言葉と共に、彼に支えられながら不安定な梯子を登ると、そこはポカポカとお日様の匂いに満ち溢れた憩いの空間。マドカは靴を脱ぎ捨てると、ベッドにダイブするかのように柔らかな藁の山に身を投げた――顔を小さく突く硬い草の感触以外は、その天然のソファは彼女を柔らかく受け止めてくれる。これでも敷いてろ――小さく貌を顰めたマドカの様子に苦笑しながら、士度は彼女の顔の辺りに羽織っていたサマージャケットを敷いてやった――ジャケットの上からもう一度確かめるように藁に身を沈め――マドカは満足そうな微笑を彼に向けた。士度も彼女の隣に腰を下ろす――車中以外で――こうやって二人肩を並べてゆっくりと座るのも、本当に久し振りの事。
未だ雨の気配を見せない、天窓から注ぐ日の光を心地良く全身に浴びながら――マドカは思い出したようにポシェットを探ると、小さな紅い冊子を取り出し、はい――と士度に渡してきた。
「・・・・何だ?」
渡された真っ赤な冊子に士度が訝しげな声を出すと、
「ヘヴンさんが先日泊まったホテルで見つけたものだそうで・・・・士度さんに読んでもらったらきっと楽しいって先程くれたんです・・・!」
何が書いてあるんですか?――無邪気に覗き込んでマドカに促されるままに、その題名に眼を走らせると――流れるローマ字で躍る“enjoy Kiss!”の文字。
嫌な予感が士度の背筋に走り――それでもパラリと1ページ目を捲ってみると・・・・
「・・・・・・・・・・」
“キスを楽しもう!!――恋人達の時間をよりenjoyする為の11のキス・テクニック――”
そしてパラリ、パラリと薄いページを捲っていくと――キスの種類と方法と――キスをしている男女のどこか滑稽にも見えるありきたりな挿絵。
ホテルで見つけた・・・・?――どうせ柾としけこんだ如何わしいHOTELか何処かからとってきたんだろう・・・・あの女狐!!
何の冊子なんですか?――マドカは興味津々といった様子でもう一度士度に内容を読むようにねだってきた。
「・・・・・・・・捨てちまえ、こんなもの。」
「――!!ちょっと待ってください・・・・!!」
士度がその(士度にしてみれば)くだらない冊子をロフトの下に放ってしまおうと手を振り上げた瞬間、マドカが高い声を上げながらその腕にしがみついてきた――せめて、何が書いてあるか教えてくれたって・・・・
小首を傾げながら悲しそうにお願いをしてくるマドカの姿に動作を止められ、士度は振り上げた手を取り合えず降ろした――そして渋々と――至極簡単にその冊子に書かれている内容を説明してやると・・・・
「・・・・読んで、くださらないのですか?」
思いがけない答えが彼女から返ってきた。
「読んで・・・・欲しいのか・・・・?」
彼女の要請に面食らいながら、士度はもう一度冊子のページをざっと捲り――後半の内容に眩暈を覚える。
“口に隙間がなくなる程に唇を合わせて、舌を絡ませたり激しく吸いあったり・・・・”
これを俺に、音読しろというのか・・・・マドカの前で・・・・・?
ダメ・・・・ですか?――戸惑いの気配を隠せぬまま黙ってしまった士度の様子に、マドカは寂しそうな声を出した。
だって・・・・やっぱり・・・・その・・・・恥ずかしいですけれど・・・・興味はあるんです・・・・――やがて小さな小さな声でモジモジと呟かれる可愛いおねだり。
――私・・・・経験とか・・・・少ないですし、色々と知らないことも多いですから・・・・・でも、士度さんがお嫌なら、どなたか他の方に読んで頂くしか・・・・・
「――!!」
他の誰かに読んでもらう!?こんな本を!?冗談じゃない・・・!!――士度は叫び出したい言葉を必死に飲み込み、ついには彼女の言葉に折れてしまった――他の誰かにこんな本を読んでもらうということは、男だろうが女だろうが他の誰かにマドカのキスシーンを想像されてしまうということで――
背筋が凍るような悪寒を感じながら、やっとのことで呟く――分った・・・・――の一言。するとマドカは救われたような無邪気な微笑を彼に魅せ――藁の上に敷かれた士度のジャケットにコテン・・・と頭を預けると、本読みを待つ幼子のような高揚感を隠さぬ眼差しで――早速待つ体勢に入った。
「・・・・・・・・・」
こうなるともう後には引けない――士度は溜息交じりにもう一度冊子の1ページ目を捲り・・・・・ザッと眼を通し・・・・・・・
『男性と女性のキスのとらえ方』――男性の場合→SEXへの初期段階。欲情へのステップ。
女性の場合→愛の確認。本気の愛の度合いを測るバロメーター。
『・・・・・・・・・・・・・・・」
卑怯だとは思ったが――士度はこの件をあえて見なかった振りをして――綺麗さっぱり飛ばして次の行へと移った――最初から刺激がきつ過ぎる言葉も、きっとマドカの為にはならない・・・・きっと・・・・。
「キスはおおまかに以下の三つの項目に分けられる・・・・ライトキス、ディープキス(フレンチキス)・・・・・・その他のキス・・・・・・・・」
ちらりとマドカの方を見ると――藁に身を横たえながら――ようやく始まった語りに頬を薄らと染めながら未知なる知識に高鳴る心で眼を輝かせてしまっている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
やはりもう・・・・後には引けない・・・・――
「バードキス――唇を窄めて・・・・・小鳥の啄ばみのように?・・・・つつきあうキス。頬にキスをするとき等・・・・・・・・・プレッシャーキス――軽く唇を押し付けあうキス・・・・ファーストキス等は、この場合が多い・・・・・」
・・・・・・そもそも何で俺は至極真面目に、こんな口にするのも恥ずかしい文章を読まなきゃならねぇんだ・・・・?マドカの為・・・・?それなら・・・・・・・・・・・
「――?士度、さん・・・・?」
急に言葉が途切れ――パサリ・・・と音を立てて冊子が藁の上に置かれる音に、マドカは僅かに身を起こした――やっぱり・・・・嫌だったのだろうか・・・?失礼だったのだろうか・・・・いくら恋人とはいえ、男の人にこの類の冊子を読ませるということは・・・・・・
「士度、さん・・・・もし気分を害したなら・・・・・ごめんなさ・・・・・――!!」
マドカが恐る恐る憂慮の声を口にすると――彼女の頬に唐突にも彼の唇が触れてきた――そして上から降ってくる――先程のしどろもどろの朗読とは違う、どこか吹っ切れたようなひどく漢らしい声。
「いや・・・・ちゃんと内容は教えるさ・・・・・今のがバードキスってやつだろう?」
――あんなこっ恥ずかしい分りにくい行をただ声に出して読むよりも・・・・きっと
「――!!でも・・・・・・ンッ・・・・・」
士度は自分が着ているシャツの前ボタンを寛げると――その唇をマドカの丹花に軽く押し当て、彼女の両手を軽く拘束することで戸惑うマドカの動きを封じながら――放り出してあった冊子を読める位置まで手繰り寄せた。
「これが・・・・プレッシャーキス・・・・・次が・・・・スタンプ・・・・?キスだとよ・・・・・・」
「・・・・・!!ふ・・・・ぁ・・・・・ッ・・・・」
そして降ってくるのは、唇を軽く開いて食むような優しいキス――唐突に降りてきた二週間振りのスキンシップは――互いの熱を上げるのにそう時間は必要なかった――
そして短い説明を入れながらも、徐々に長く――徐々に情熱的に口腔を犯す彼からのキスのレクチャーに、マドカはその身を完全に藁のベッドに預けた。
数分後――
「ん・・・ふ・・・・・あッ・・・・・・」
――ほら、今のが“カクテルキス”ってやつだってよ・・・・・・
乾いたようにクッとなる士度の体音でさえ、マドカの官能を刺激し――熱く蕩けるような思考が一瞬一瞬、彼女の全身を支配していく。チュッ・・・と甘い音を立てながら刹那離れた唇の間で、マドカは身を震わせながら熱の篭った声を出した。
こんなはずじゃなかったのに――それでも種を撒いたのは結果的に自分自身――ヤメテなんてそんな我侭、今更・・・・言えない――あっという間に蕩かされて、抵抗する力も残っていない――夏の熱気とは違う暑さが――マドカと士度の周りを立ち昇るように包んでいき、彼女は肌を流れる汗の感触に小さく躰を揺らした。
「士度・・・・さん・・・・熱・・・いです・・・・・・」
覚束ない動作で自身の胸元に手をかけたマドカの声に士度が視線を移してみると――彼女のブラウスは薄らと汗ばみ、透けたその下でははちきれそうな双房が苦しそうに揺れていた。
士度が苦笑混じりにブラウスのボタンを半ばまで外してやり、フロントホックの留め金も開放すると――中央に寄せてあった乳房がフルリと愛らしく揺れながら露になる。仄かに上気した白い肌の上で煌く汗の雫をなぞる様に彼の武骨な指がどこか楽しそうに彼女の胸元を辿れば――彼女の喉から切ない喘ぎ声が漏れ、士度の耳を楽しませた。
「熱いのは・・・・胸だけか・・・・?」
マドカの舌を吸い込むように絡ませるキスを施しながら、その狭間で囁かれるのはどこか揄うような声。彼女は涙ながらに頭を振りながら、今は時折震える柔らかな下肢を恥らいながらも小さく揺らす――彼の手がゆっくりと――真っ白なスカートの下に潜り込んでくる感触に――マドカは羞恥の余りその貌を彼のジャケットへと押し付けた。
天窓から覗く空模様が――徐々に黒い雲で覆われていたことに――二人はまだ気付かないでいた。
「・・・・・いつもと違うな」
見慣れぬガーターベルトの扇情的な光景に、士度の声が物珍しそうに紡がれる――
戯れにレースに触れてくるところから――マドカのこの何時にない姿に悪い気はしていないらしい。
「あ・・・・だって・・・・・士度さんと・・・・ァ・・・・久し振りに・・・・お泊まりで・・・・・ヤッ・・・・!!そんな・・・・・しないで・・・・・・・ッ!!」
下着の上からもその形がはっきりと分るほどに濡れそぼっていた彼女の蜜口に――士度の厚い指が滴るマドカの愛液を煽るように塗り込めたので、マドカは思わず悲鳴を上げながら士度の肩を肩を掴んだが、彼女のか弱い力では彼の鍛え上げられた体躯はビクともしない。それどころか布と滴る蜜と彼の指先が――耳を塞ぎたくなるような水音を立てながらマドカの中心から全身を淫らな感覚で犯していった――
「久し振りに泊まりだから・・・・?」
「――!!」
――だから・・・・・どうしてだ・・・・?
きっと疾うに心の何処かで知っている問いを士度は――肌を拓かれている羞恥と甘い声と淫音を引き出される愛撫で――まだどこかあどけなさが残る貌を真っ赤に染めるマドカの初々しい反応を楽しむかのように、わざと意地悪に訊いてくる。
「――ァ!!・・・・嫌ァ・・・・ダメ・・・・・ッ・・・・ア・・・・アッ・・・・・・やぁ・・・・・!!」
心を探るような彼の視線にマドカが翻弄されていると――布越しに何の前触れも無く秘芽を擦られ、マドカは士度の腕の中で哀れなほど身悶えた。彼女のそんな無力な媚態は士度の嗜虐心を否応無く誘う。
――だって・・・・だって・・・・・
その儚い痩躯の動きを封じられながら――下肢から淫猥な音を響かせ、言葉にならない答えを強いられてはもっと啼かせてみたくなるような艶やかな声で淫蕩な感覚に溺れる無力な妖精のような彼女。
雨が天窓を叩き始めた音を耳の端に収めながら――士度は彼女のランジェリーを脱がしてしまおうと、その薄い布の端に手をかけたのだが――ふと指にからまるのは、細く真っ白なリボン。マドカの腰の両サイドで止められているシルクでできたその細幅の紐を解いてしまえば――彼女の最奥を隠す布はきっとハラリと落ちてしまう――
士度の指がリボンに掛かったことに気がついたマドカは恥じ入るように身を縮めた。
「これも・・・・泊まりだからか?」
彼女の羞恥心を煽るように深く刻まれた機嫌の良いビロードの声に、マドカは否定も肯定もできぬまま――触れられる度に怯えるように震える脚を閉じてしまおうとその身をさらに小さくする。それでも彼の少し節くれだった長い指は、その細紐を弄ぶように絡めとリ――
「や・・・士度・・・さん・・・・もう・・・・――!!」
も〜!!せっかく士度さんの天気予報信じて準備してたのに・・・!!――マドカは叫ぼうとした言葉を急に入ってきた夏実の高い声に身を竦ませながら飲み込んだ。
――銀ちゃん・・・・壊れた傘持ってくるなんて・・・・ほら、こんなに濡れちゃったじゃない!!
――ご、ごめんよぉ・・・・だってまさか二本とも骨が折れてるなんて思わなくって・・・・・そ、それより・・・・先にお散歩に出てた士度とマドカちゃんは大丈夫かなぁ・・・・?あの二人だって傘一本しか・・・・
突然の乱入者の出現に――様子を見る為か士度もピタリと動きを止めた。そんな彼の様子に――マドカは思わず縋った彼の腕の中で密かに安堵の溜息を吐いた。これでようやく――狂おしいまでの快楽から、暫し解放されて――このままペンションに帰れるのかもしれない・・・・さっきまで意地悪だった彼には、ちゃんと反省をしてもらわなきゃ。
――マドカちゃんは、大丈夫でしょ?だって士度さんがいるもの・・・・・コッチ見ないでね!?
濡れた服を絞っているのだろうか――夏実の鋭い声と銀次のしどろもどろな返事が聞こえてくる――そんな二人のやり取りに、マドカは思わず口元を綻ばせる。士度の視線がチラリと彼女の貌を捉えた。
――そ、そうだよね・・・・!士度がちゃんとマドカちゃんのこと守るから・・・・でも・・・・士度はいいなぁ・・・・マドカちゃんみたいな可愛い彼女がいて・・・・・
――?
――オレも最初マドカちゃんに会ったとき、可愛い子だなぁって思ってたんだけど、いつの間にか士度とくっついていたんだよ!?敵同士だったのに・・・不思議だよねぇ・・・?それに・・・・・
徐々に強まる雨音の中で――銀次が唐突に語り出した昔話に、マドカは眼を丸くしたが――次の刹那、その漆黒の瞳はさらに瞠られ彼女の痩躯は再び背後の藁に深く沈んだ――士度が指に絡めていたマドカのランジェリーのリボンを当たり前のように引っ張り――そしてもう片側の絹紐も、マドカに抵抗する間も与えないまま同じ動作で綺麗に解いてしまったのだ。
階下に人がいるような状況での士度のこの暴挙にマドカは絶句し一瞬思考回路がついていけなかったのだが――次のワンリアクションで白い薄布を彼女の中心から綺麗に取り去ってしまった士度が、そのままマドカを見下ろしながら呟いた言葉に彼女は今日の彼を止められないことを本能的に悟った。
――便利じゃねぇか・・・・・
――!!
そして噛み付くように降ってくる――今宵一番激しい
――彼女の雪のような肌を味わうように辿る彼の唇の熱からも――痛いくらいに弄ばれ、充血していく桃色の果実から伝う淫蕩な快楽からも――逃れられないことをマドカの躰は知っていた。
ともすれば喉の奥から漏れてしまいそうな嬌声を抑える為に――マドカは必死に口元に手をあて――耽惑の疼きに耐えようと貌を伏せた。藁が鳴ってしまうことに対する恐怖が、士度から逃れる抵抗を彼女から容易に奪う。
――それに・・・・?
絞った服を広げる間、銀次が止めていた言葉の続きを夏実がさりげなく促した。
――あ、うん・・・・それに・・・・ほら、オレらが無限城にいた頃さ、士度が女の人と一緒にいるのを、ホントにたまーになんだけど・・・・何度か見かけて・・・・
(――!!)
銀次の言葉にマドカの肩がピクリと揺れ――彼女の腹部に舌を這わせていた士度も刹那動きを止めたのだが――
――でも・・・・恋人同士とか・・・・そんな風に感じたことって一度もなかったし・・・・隣にいた
(・・・・・・・・・・――ァ!!)
どこか釈然としない面持ちで銀次の話に図らずとも耳を傾けてしまっていたマドカは、すでに蜜を潤していた花孔に唐突に燠く舌を這わされ――その手は思わず唇から離れ、抗議するかのように士度の髪をクシャリと掴んだ。
――しかし彼はマドカの心を引き戻すかのように、悦楽を彼女に植えつけるかのように――身を捩じらし、弱弱しくも抵抗する彼女から滾々と滴る愛液を舌にのせる。
彼はもう、階下を気にする素振りを見せなかった――
――あ、でも、あの時の士度は普段ホント人を寄せつないようなこーんな恐い顔しててさ!だからそのときも・・・・士度が
夏実が藁の上に腰を下ろしたのだろうか、藁が大きく揺れる音が雨音の中で小さく響く。
――だから、さ・・・・マドカちゃんの隣で―「散歩にでも行くか?」―なーんて士度が言えるようになるなんて・・・・人を本当に好きになるってことは凄いことなんだなぁって思ったんだ・・・・
話の途中に入れた銀次の士度真似に、夏実がクスクスと笑いながら拍手を送る――士度がふと眼を上げると、マドカもいつの間にか士度のジャケットに顔を伏せ――小さく肩を震わせている有様で。士度は仕方なさそうに彼女の下肢から唇を離すと――お仕置きだと言わんばかりにマドカの体内に指を埋めその華奢な躰に乗り上げてきた――マドカは彼の突然の行為に心臓が跳ね上がり、内壁が慾のままに収縮する卑猥な感覚を感じながらも――触れるか触れないかの距離にまで近づいてきた彼の熱を孕んだ吐息が妙に嬉しかった――
例えば、こんなときに――ふとしたことで伝わってくる――想いの距離が。
そして笑いが残る音で夏実が呟いた「分かるよ・・・」――の声。
――マドカちゃんだって・・・・士度さんと知り合ってから吃驚するくらいどんどん綺麗になって・・・・大人になって・・・・同じ女の子としてとっても羨ましいよ・・・・・
――恋をするって、ホントに素敵なことなんだねぇ・・・・・――
――彼の唇と触れ合う瞬間――マドカは耳が拾った夏実の声に微笑し――刹那苦笑した士度の気配に眼を細め――もう一度彼の
絡み、求め合う熱の交感は、やがてゆっくりと激しさを増し――階下にいる人達の声が聞こえなくなるほどに――徐々にマドカを淫美な世界へと誘っていった。
彼から与えられた快楽の叫びを――全て彼の唇に飲み込まれながら。
「――?え・・・・鳥・・・・?〜〜ッッギャア!!」
銀次がロフトに手を掛けて上がろうとしたまさにそのとき――ピィ・・・・・・――と甲高く短い音色が納屋に響き――その瞬間、ロフトに詰まれた藁の中から一匹の三毛猫が飛び出してきて銀次の顔に一撃を喰らわせた。
突然の襲来者からの手酷い猫パンチに――銀次は梯子の上で仰け反るようにしてバランスを崩し、夏実の悲鳴とシンクロしながら梯子と一緒に階下に詰まれた藁の上に派手な音を立てながら撃沈した。
――銀ちゃん大丈・・・・あ〜あ・・・・・梯子、折れちゃったじゃない・・・・!!
――は・・・・梯子の心配よりオレの心配をしてください・・・・・・・・
顔面に派手なバツ印の引っかき傷をお見舞いされた銀次は、折れた梯子の下でタレ銀モードで涙に濡れている。
大した事ナイナイ・・・・!!――そう夏実が破顔しながら銀次の手を引いて助け起こしたとき――銀次が勢い良く起き上がった弾みで――二人の顔の距離が妙に近くなった――
そして思考が真っ白になる程の緊張感から突如放り出されたマドカが未だに放心状態で身を晒していている真上で――士度は喫茶店の娘の口から漏れた酷く残酷な言葉に苦笑する。
――?銀ちゃん・・・・・私、熱ないよ・・・・?
――〜〜〜!!
さらに――
――あ・・・・!!雨、小降りになってきたよ!?今のうちに走って戻ろっ?レナちゃんがプラネタリウムを楽しみにしてるはずだし・・・・!!
どこか慌てた風にそう言うや否や――喫茶店の看板娘は小雨降る緑の中へ駆け出して行ってしまったらしい。
後に階下に残ったのは――勇気が玉砕し、絶望的に項垂れる銀次の姿。
「・・・・・・・・・・・」
士度は脇に放り出されていた紅色の冊子を――今度こそロフトの下へと投げやった。
銀次の真後ろに落ちるように。
背後からしたパサリとした音に銀次はすぐに気付いたようだ。
「・・・・?えんじょい・・・・きす・・・・?」
そしてパラパラと冊子を捲ると――単純な友人は見る間に単純に顔を輝かせ――
「――!!ありがとう!!ネコさん・・・・!!」
ロフトに向かって軽快にそう叫ぶと先に行ってしまった夏実の名を大声で呼びながら納屋から飛び出して行った。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・行ったぞ?」
「――!!・・・・・も・・・・・・・・・士度さんの・・・・!!馬鹿ァ・・・・・・!!」
身を起こしてポカリと彼に抗議をしようとしたマドカだったが――内に収まる彼の存在に瞬時に顔を赤らめ――クタリと躰を藁に預けると、湧き上がる羞恥と冷めない火照りに身も心も焦がされながら敷かれた彼のジャケットに顔を埋めた。
途中で・・・やめてくれたって・・・よかったのに・・・・・――そう言い訳のように呟く彼女の肩に、そして頬に――柔らかく労うように落ちてきた優しいキス。
「途中で・・・・ってな・・・・本を渡して煽ったのも・・・・・・・」
士度がわざとらしく彼女の唇を掠めたてきたバードキスに、マドカは恥ずかしそうに瞳を瞬かせる。
「・・・・こんな下着を着て誘ってきたのも・・・・・・・・」
マドカが擽ったそうに身動ぎするなかで悪戯にガーターベルトに指を絡ませながら勝ち誇ったかのように微笑む士度の口から零れたのは――
――全部お前なんだぜ?
眩暈がするような、蟲惑的な音色。
否定できない自分の心を叱咤しながら――マドカはジャケットに残る士度の匂いを吸いこむと――どこか恨めしそうに呟いた。
「・・・・・・・下着もスカートもぐちゃぐちゃになっちゃいました・・・・」
「・・・夕飯の時間までココで乾かしていけばいいだろう?」
士度は彼女の黒髪にそっと唇を寄せた。
「梯子・・・折れちゃったって・・・・」
「このくらいの高さ、俺ならお前抱えて容易に降りられるさ・・・・」
脚の付け根を彼の長い指でなぞられ――マドカは空いている彼の手に縋った。
「ブラウスだって・・・・汗でこんなに濡れちゃって・・・・・」
「これからもう少し濡れるんだ・・・・・気にするな」
サラリと告げられた彼からのそんな台詞に彼女が苦情を申し立てる前に――士度はマドカの首筋に顔を埋めながら、耳に心地好い嬌声を再び彼女から引き出しにかかる。
――あとどのくらい・・・・私の知らない事があるのかな・・・・・・
キスを理由に――マドカはそんな台詞を飲み込んだ。
――あとどのくらい・・・・・伝えなきゃならねぇ
不意に聞こえてきた自身の昔語りに刹那眉を顰めながらも――士度は言葉の代わりに彼女の唇に甘い疼きを与えた。
――それでも――
――今はあなたが、誰よりも私の近くにいるから・・・・
心も、身体も――どんなに溶け合っても、その度に愛しい人。
――今はお前が、俺のことを一番よく知っているから・・・・
自分でも知らなかった俺自身を――導いてくれる確かな存在。
声にならない想いを吐息で分かち合いながら――刹那二人の唇が離れた瞬間、マドカの見えぬ眼差しと――彼女を見つめる士度の視線がクリアに交わった。
二人は暫し見詰め合うと――やがてゆっくりと互いの指を絡め合い――恋人達を支える香る柔らかな藁にその身を沈めた。
雨はすっかり上がり――晴れた雲間から零れた夕焼けの
一つになり――ゆっくりと蕩揺する二人の長い影を――山積になった藁の天辺から見つめながら、三毛猫は大きな欠伸をした。
そして恍恍と流れはじめた愛を謳う音色を子守唄に――ご馳走様といわんばかりに、午睡を誘う太陽の光に身を委ねた。
Fin.
題『秘め言』は『秘め事』との絡みで☆
データ消去の憂き目と半復活の奇跡と愛溢れるエールに支えられて・・・・・煩悩が赴くままに書き綴りました・・・!★
ポメ様より「人気のある所(屋内外問わず)での士度×マドカ@月窟行き」でしたv
亀で遅刻で色々ご迷惑をおかけしたなか辛抱強く待って頂いてありがとうございますポメ様・・・!!゚.+:。(pωq)゚.+:。
少しでも師匠の萌糧Energyにしてもらえれば幸いです・・・v(*ノωノ)
書き応えのあるナイスリクエストをありがとうございましたポメ様!!♪
(まさに何時か書いてみたかった夢シチュでした!!Σ(゚ロノ|┬┴)
そして管理人はまたの挑戦をお待ちいたしておりますvv