普通、恋人の父親と初めて会う“場の雰囲気”といったら・・・・。
互いを観察しあい、居合い刃を抜くときのような間の測り方を髣髴とさせる、えも言われぬ独特で静かな緊張感を士度は想像していた。
しかし、実際はどうだ。
親父殿は足早に居間に入ってくるなり大声を上げ、マドカを俺から引き離そうとする。
マドカは俺に縋りつき、泣きじゃくる。
そして親父殿は彼女の言葉に茫然自失。
いや、その気持ち、分からぬこともない――
何故なら彼女は・・・・。
そして俺は、ただただ彼女を抱きしめることしかできなかった。
自らも泣き出したいような不安と戦いながら。
今、この胸の中で涙を流す彼女が求めている者は――
“俺であって俺ではない”から・・・・。
昨日からマドカは俺のことを
――士度さん――
とは、呼ばない。
「それじゃ、士度君、詳しいことはまた明日ってことで・・・あら、電話が鳴ってるわよ?」
「あぁ・・・じゃあ明日また・・・」
そう言いながら折りたたみの携帯を開き、着信の番号を確認した士度は片眉を上げた。
そして電話の主と会話を始める士度を眼の端に収めながらへヴンは軽く手を振ると、
お茶の時間に賑わい始めたカフェを背にし、目の前に止めてある愛車に乗りんで、キーを回した。
「なんだって・・・・!?」
ヘヴンがアクセルに足を掛けたとき、珍しく士度が大声を上げ、電話片手にいきなり彼女の愛車の前に回りこんできた。
ガッ・・・・
「ちょっ・・・・!アンタ!!何やってるのよ!?」
すでに発進しかけたポルシェを、士度がバンパーを押さえることで、“片手”で止めたのだ。
300近い馬力がある、それを。
「ちょっと!!こんな往来でこんな人間離れしたことをするなんて士度君らしく・・・・!?どうしたの??」
何も言わずに彼女のオープンポルシェの助手席に滑るようにして乗り込んできた士度に、彼女は目を丸くする。
「マドカが舞台から落ちた・・・・怪我をしたらしい。K病院だ。」
「!?」
ヘヴンは慌ててアクセルを吹かした。
道が許す限りの全速力で車を飛ばす合間に、助手席の彼を横目で見ると、
いつもは落ちつた表情の彼の貌は、今は悲愴なまでの不安を漂わせていた。
久し振りに短期連載形式で・・・。