【1】
「今回のターゲットはあの海中に・・・」
突如、後部からドンッ!と爆発音が聞こえたかと思うと、ヘリが大きく傾いた。
バランスを失いこちらに倒れてきた依頼主を支えると、士度は「どうしたんだ!?」とパイロットに向かって怒鳴った。
「分かりません!エンジンが・・・ダメです!コントロール不能!このままだと海中に・・・」
ヘリは不安定に旋回しながら急速に落下していく。後ろを振り向くと煙と火が座席のすぐ側まで迫っていた。
依頼主は士度の腕の中で震えている。
士度は短く舌打ちをする。だからこんな鉄のカタマリに乗るのは嫌だったんだ。人間は元来空を飛ぶ生き物じゃないのに・・・。
パイロットは諦めまいと忙しなく計器をいじっているが、状況は一向に改善されない。
窓から下を覗くと、真っ青な海が目に飛び込んできた。
このままヘリごと海に突っ込めば、衝撃と爆発と流れ込む海水に一気に襲われておそらく−死ぬ。
機内にはガソリンの臭いが混じった煙が立ち込め始めた。
「オイ!二人ともベルトを外せ!」
士度は声を張り上げるとベルトを外し、ヘリのドアを力任せに開けた。
風が勢いよく流れ込んできて、激しく揺れる機内を渦巻いた。
「な、何を!?」士度の行動の真意がわからず、バイロットがうろたえる。
「海に激突する前に飛び降りるんだよ!コレごと落ちたら十中八九オダブツだ!」
士度の言葉を聞いて、依頼主とパイロットは慌ててベルトを外しはじめた。
そしてパイロットは這うようにして後部座席にやってくる。
士度が開いたドアに手をつき身を乗り出すと、黒い煙が尾翼から尾を引いているのが見えた。
ヘリに併走するように飛んでいたカモメが士度に告げる。
<オイ、イヤナヨカンガスル・・・ハヤクコイツカラハナレロ!>
<そうするさ!この近くに陸はあるか?>
<三キロサキニ・・・コジマガ・・・>
<上等!>
ヘリが降下するスピードはグングン上がり、鮮やかな青が迫る。
「オッサン、真下に落ちるなよ!合図と一緒に前に進むように飛べ!」
パイロットは眼を見開き、冷や汗を流しながら頷いた。
「アンタは俺から離れるなよ。」
士度は依頼主をおもむろに抱き上げると、ずっと黙って震えていた若い女性は士度に縋るように抱きついた。
「・・・おまかせ、します。」
ヘリを避けるように旋回したカモメが振り返ると、人間が創りし鳥が爆ぜて炎を上げ落ちていく光景が目の前に広がった。