
「ハキムさん、今日は何して遊びます?」
――そんな風に無邪気に笑うリンの笑顔は、これからハキムから出される提案を純粋に楽しみにしているように見えなくもない。
しかしこの前来た時は怪しい異国の媚薬を嗅がされて、躰が溶けてしまいそうな程に達かされた。
その前は――どこで覚えてきたのか縄で全身を亀甲模様に芸術的に縛られて――両手ともがく自由を奪われたまま、身体を締めつける縄に苛まされながら犯された――ハキムは薔薇ノ館に来る度にリンを指名して、彼女の小柄な体に実に楽しそうに常人とは違う一風変わった性交を求め、こうやって彼女を甚振り泣かせては満足して帰って行く――リンにとっては一番稀有な客だった。
彼のような行為を求める客は白百合や薔薇にもたまにやってくるし、リンもその相手を何度かしたことがある。しかし彼らとハキムの違いと云えば――
彼の嗜虐性は笑みを浮かべながらもどこか達観しているのだ――彼は他の客と違って、行為で悶えるリンを見てもあからさまに興奮をぶつけてはこない――激しい行為の中でも彼は静かに彼女を見つめ、淡々と弄り――そして彼は
こんなにも静かで激しく――そしてその心を読むことが難しい、燻る煙のような人に好かれてしまうなんて……。
今の自分もこうやって彼の前では笑顔で取り繕ってはいるものの――今日の彼は何を要求してくるのだろうと内心緊張しているのは確かで、彼は笑顔の下にそんな視えない怖ろしさを隠している人……――
「そうだなぁ……じゃあ、今日は――とりあえず……」
「え……?ハ、ハキムさん……?」
彼がポケットから取り出したのは、柔らかな革紐――それにリンが一抹の不安を覚えたのと同時に、彼女はハキムによってあっと云う間にその革紐で両手を拘束され――壁に取り付けられている壁掛け用のハンガーに吊るされてしまった。リンの両手首は革紐によってひとつにまとめ上げられ、その革紐を少し高い位置にあるフックに括りつけられ――小柄なリンの足元は、爪先でようやく立てるほどで不安定なことこの上ない。
今日は何をされるのだろう――そんな不安げな表情がリンの貌に浮かんだが、ハキムはそれに頬笑みだけを返すと、首に巻いていたアスコットタイを外し、リンの大きな眼を隠そうとした。
「……!!」
彼の意図を察した彼女の瞳と身体がビクリと怯える。その様子を見たハキムは何かに気づいたようにそのアスコットタイを引っ込めると――リンがホッとしたのもつかの間、今度はポケットから取り出した白いハンカチーフを丸めて彼女の口に詰めると、その上からアスコットタイで彼女の口元を縛って簡易の猿轡で彼女の声を封じた。最初は目隠しをして彼女の視界を奪い、触覚だけで感じる様を観察しようと思っていたのだが、やめた。これからする“遊び”は、これから自分がすることを彼女がその眼で見て――そして動きも声も封じられたなかで彼女が恐怖する様を視る方が楽しくなるだろう。
「〜〜ン〜〜〜!!」
動く自由と声を発する自由を奪われたリンの目の前で、ハキムは部屋に灯る蝋燭を次々と消してゆく――
最後に残った燭台が燈す明かりの下で、彼は懐から朱い蝋燭を取り出し、手慣れた手つきで燐寸を擦った。
「………?」
目の前の燭台に残る一本の蝋燭と入り口近くランプの灯が残るだけの薄暗い部屋の中で朱色の蝋燭に柔らかな灯りが燈ると、ハキムは燭台に残った最後の蝋燭の火を吹き消し、それを無造作にカーペットに転がした――その代わりに、彼が持ってきた朱い蝋燭が燭台を飾る。
その燭台にただ一つ燈る不気味な炎とハキムの仮面のような笑顔が、幻想的な灯火の色と共にリンの方へと近づいて来た――彼の真意が分からず、声を出せないリンは恐る恐る瞳で問うてくる。ハキムは眼を細めながらなんでもないように応えた。
「大陸の方では、まぁ裏では流行っているのかな……蝋燭の蝋をね――あ、まずコレが邪魔か……」
「―――!!」
ハキムは懐から装飾に輝く鞘に入ったナイフを取り出すと、片手で鞘を外し――灯に鋭く光る刃でリンの短い中華ドレスを縦に一閃で引き裂きただのベストのような羽織にしてしまうと、絶句するリンに頓着せず、一枚残った彼女の下着もその刃でただの襤褸切れにしてしまった。
「ン…ッん……」
乳房も秘処も無防備に晒すことになってしまったリンは恥ずかしさと得体の知れない恐怖で身を捩ったが、ナイフをそこらの飾り台に置いた燭台を持ったハキムは彼女に身を寄せるようにして近づいてきた――そのときになって初めて、燭台の上の蝋燭の仄かな熱風がリンの肌を撫ぜ――
彼女の心臓がトクリと跳ねる。
「そうそう、蝋燭の蝋をね……こうやって……」
「んアァァァァァァァ―――!!!」
言いながらハキムは話のついでのようにその紅い蝋燭を傾け、その蝋を彼女の右の乳房の膨らみにポタリと垂らした――猿轡の下からは布に邪魔されたリンのくぐもった悲鳴が漏れ、彼女の躰は突如身に落ちてきた熱に身悶える。貌を天井に向け、肌に触れたあとも浸透してくる熱さゆえに涙を流すリンの表情を覗き込みながら、ハキムは手にした灯りを彼女の顔に近づけた――「――!?」リンの貌にサッと恐れが浮かぶが、ハキムは彼女を慰める様に空いた片手で彼女の涙を拭いてやる。
「――だいぶ高いところから落としたから、まだそんなに熱くないはずだよ?ほら、このくらいから落とすと……」
「ンウゥゥッッッ!!」
スッと腕を弾いてハキムはさきほどよりも一段低い位置から、今度は左の乳房の豊かな部分に蝋を落とす――リンの躰は弾かれたように揺れ、彼女の喉から駆けあがった絶望的な悲鳴は再び布に吸いこまれた。蝋が落とされた肌が熱の針で刺されたように痛みと、ジンワリと沁みるような刺激をリンに与え――彼女の呼吸を自然粗くし、余韻に震える小柄ながらも整った肢体からは怖れからか熱からか――汗が浸みでて蝋燭の光に輝いた。
「……大丈夫、普通の蝋燭だと火傷するだろうけど、これは東の国から仕入れた、
「ウゥ……!!!」
ハキムはリンの腹や太腿に、遊ぶように蝋を垂らす――その熱は相変わらず彼女を苛んだが、それは胸に伝わった蝋よりもほんの僅かだが温度が低いように感じた。ハキムはもがきながら荒く息をするリンの髪を掴み上を向かせると、涙で見えなくなっている彼女の黒い眼を覗き込みながら言葉を続ける――
「――この国の蝋燭よりも融点が低いから、ほら、こんなところに垂らしても……」
「ひぎッ…!!」
ジッ…と嫌な音を立てながら、蝋は彼女の右胸の尖端にポタリと落ちた――その瞬間彼女の肢体は壊れたかのようにビクンと大きく揺れ、彼女の黒い瞳がさらに大きく見開かた――溢れた涙はそのまま重力に従い彼女の頬を止めどなく濡らし、落ちた蝋が固まるまで敏感な部分から全身に伝わる熱の残酷さに彼女の躰は自然と痙攣する――口を塞ぐタイは彼女の唾液ですっかり濡れていた。
「…………」
「んッ……ンン―――ッ!!!」
ハキムが蝋で彩られた右胸の頂きを捏ねるように触れるとリンは感じ入るようにピクリと揺れたが、間髪置かずに左胸の敏感な部分に蝋を垂らされ――苦悶の表情がリンの貌を絶えず襲った――胸に、腹に、腕に、首筋に――リンのくぐもった悲鳴を聴き、蝋の固まり具合を見ながら微妙な間を置き、ハキムは彼女の白い肢体を朱い蝋で染めていく――
「…………」
身を捩じらせ、涙と汗と叫べない悲鳴を躰中から上げるリンの躰と貌を無表情で見つめながら、ハキムは彼女の顔に――
いつも自分の隣にいる仲間の顔を重ねた。
このリンと背丈も身体つきも顔の形も髪型も良く似ている范は、しかしこんな風に泣いたりはしない――
痛みにも哀しみにも、唇を噛んで耐える女だ――けれど、自分はいつか……
「……?」
悶えるリンの顎を持ち上げるように掴んだ時、不意に既視感が彼を襲った――あぁ、あのとき――范と出会って間もないとき――
范と初めて手合わせをしたとき、自分は初めてアイツの肌に触れたんだ………――
ハキムが士度に初めて出会ったのは、今から数年前――大陸のとある砂漠でのことだった。
士度は旅の途中、ハキムは退屈しのぎでぶらついていたときに――ひょんなことから出くわして、間もなく
<――砂漠より海の方がきっと面白いぜ……?>
何より、お前は外の世界も知った方がいい……――
士度は剣を鞘に納めながら、倒れたまま呆然とオアシスの夜空を仰いでいたハキムに云った。
船の生活も悪かないさ……――来いよ――
ハキムは砂漠の大部族の長の三男坊だった。興味がないのに振りかかる跡目争いにも辟易してきたところだったし、地位と財はあっても退屈な毎日――そんな中で見つけた、面白そうな輩――士度と初めて出会ったのでは、砂漠のオアシスに近い街の武器屋だった。彼はハキムの国で見れば一見で分かる異邦人であったが、彼に付き従う双子の従者は普段はマントとマスクでその姿を隠しているとはいえ、その眼の色と、フードの奥から覗く長い銀髪が語るさらなる異形の姿がハキムの興味を引いた。
<君の下僕、珍しい毛色だね。どこで買ったの?>
――武器屋でハキムはまるで他人のアクセサリーを褒めるかのように士度に声を掛けた。彼は一瞬眼を丸くしたが、
<いいだろ?でも買ったんじゃない……縁があったんだ>
――と苦笑交じりに応えた。双子は自分達のことが話題に上りながらも表情すら変えずに無言で士度の背後に控えていた。
ハキムを見つめるその青と紅の瞳も、彼にとっては高く売れる宝石の色に見える。
<――ふ〜ん……で、ものは相談なんだけど、君の下僕の銀髪、一房譲ってくれないかな?金はそっちの言い値で出すよ。編んで宝石をつけたら、姉様の素敵な髪飾りに――?>
そう笑顔で云ってくるハキムの肩を、話途中で士度は片手でポンッと諭すように叩いてきた。彼もハキムと同じように笑顔だったような気がする――
ハキムは少し不思議そうに士度を見つめた。
<ちょっとそこのオアシスで話そうか?コイツの切れ味も確認できそうだしな……>
買ったばかりの
――そして、初めて、他人に負けた。
彼の言葉に魅かれた理由は――自分とは違う強さと価値観と世界を持つ目の前の男の生き様をこの眼に焼きつけてみたくなった――ただ、それだけのこと。だからハキムは士度の手を取り、シリウスの一員となった。新入りでも
砂漠を共に渡り港に戻りローレライ号に入る――シリウスのメンバーからは最初は余所者扱いされるだろうと思っていた予測はまんまと外れ――案外すんなりと受け入れてもらえたのは、
訊けば本国のスラム街出身だという――特技を訊けば一言暗器使いだと答え、何故シリウスに入ったのかと訊けば、
そしてそんな状況が一週間ばかり続き段々と――暖簾に腕押しの范の反応にハキムはなんとなく不満を感じはじめた。それに范自身が他の仲間たちと打ち解けた交流をする方ではないので、范についているハキム自身も自然彼らと交流する機会が少なくなる――食堂での食事の時も、范は賑やかなテーブルには行かず、隅にある無人のテーブルを選ぶ。太陽が照りつける日、甲板の上で仲間達が気持ちよさそうに水浴びをしているときも、その陽気な輪には決して加わらない――なんで
「あぁ、アイツは
という簡単な言葉が当たり前のように返ってきただけ――克己的?――感情も表情もまるで露わにしない奴は、それ以前に他人をただ拒絶しているだけにしか見えない――
ならば…そんな奴のベールを剥ぎとるにはどうすればいい――?簡単なことだ。奴の闘争本能を引き出すまでに揺さぶってやればいい……。
せっかくこれだけ一緒にいるんだから、手合わせをしてお互いの実力を確認しよう――
そう范を誘ってみれば、彼は簡単に了承した。そして、ある晴れた日、ローレライ号の甲板で――ハキムは范と初めて剣を交える。
士度(おかしら)は執務中のようでその場には居合わせなかったが、手が空いていたシリウスのメンバーは久し振りの新人が提案した余興を見物しに続々と中央甲板に集まってきた――皆娯楽を待ちわびるかのような表情で自分の范を少し遠巻きに囲んでいる様子が、ハキムの気持ちを躍らせた。范は
しかしいざ、仕合いを始めてみると――展開としてはハキムの予想通り。
范の手元からはどこに隠してあるのやら、寸鉄やら十手鎖やらが飛んできてハキムを襲ったが、ハキムはそれらを全て避けるなり飛輪や小刀で落とすなりしてのけた。
范も范で素早い動きと鉄扇で、縦横無尽に飛び回る彼の飛輪の鋭い刃を避けてみせるのだが――
暫くしてハキムは范の実力を見極め、やはり少し苦労することになる。
范を、この場で殺してしまわないように。
范の動きにはスピードがあり、彼は相手の動きも良く見ている――しかしハキムが思った通り、范から放たれる数多の武器はその狙いは正確ではあるのだが、聊か速度が足りない――それは范が纏う衣服の上から予測できたことだ――彼の身体の線は細すぎる。細い腕から放たれる范の武器の殺傷力は、ハキムには物足りなかった。それに実戦の経験が少ないのだろうか、范自身の動きに無駄は無くとも、“相手に予測をさせない動き”が不得手のようだった。
徐々にハキムの攻撃が范の動きを翻弄し始める――それでも見物者の間にざわめきは生まれなかった。
“予想通り”――そんな雰囲気の中で、シリウスのメンバーは范とハキムの仕合いを観察していた。
「…………」
十分程武器の応酬が続き、ついにハキムの飛輪が范の黒衣の腕と脚の部分を切り裂いた――手加減をしたので深手にはならなかったにせよ、裂かれた部分の黒衣は范の血でさらに濃く染まる――脚に走った痛みに思わず片膝をついた范の背後からハキムは手元に戻って来た飛輪の刃を彼の頬へと押し当て、その細い顎を軽く持ち上げるようにして掴むと、思わず息を止めた范の耳元で囁いた。
「――君は色々と貫録不足だね?まずは外見から入ってみる?」
「――!!ちょっ……!!」
「………好きにしろ――」
范の頬に男の勲章である傷をつける旨を言外に宣言したハキムの言葉に、見物していた面々の空気に初めて焦りが生まれ、笑師の慌てた声がその場に響いた―― 一方の范は嘆息混じりに、しかし抵抗することなくあっさりと了承する。
ああ、これで
そんなことを考えながら、ハキムは范の頬の上で飛輪の刃を引こうとしたのだが――自分が力を入れたはずの飛輪は何故かびくとも動かない。
「―――?」
視線を手元に流すと、いつの間に、どこから現れたのか――細く鋭い槍の穂先が飛輪の内側に差し込まれ、飛輪とハキムの動きを封じていた。
「――!?……ランツェ、余計な事をするな……」
周りが息を呑むなか、先に憮然と言葉を発したのは范だった。しかし范とハキムを無表情で見下ろしていたランツェは、
范の台詞を蔑むようにその氷色の眼を眇めた――
「貴様の顔がどうなろうと、俺の知ったことではないが―――」
ランツェの言葉途中で槍は飛輪を固定したままスッと動き、ハキムの頬にその槍刃が触れると――
その刃先は彼の頬の産毛を剃るかのようにゆっくりと動かされた――その侮蔑的な動作に瞬時に激高したハキムは反射的に次の武器を懐から出しランツェに向けようとしたが、彼がそれを取り出す前に――どこをどう動かしたのか――ランツェの槍の穂先の真逆にあった槍の石突きがハキムの額を襲い、ガッと鈍い音と共に彼は甲板に背中から叩きつけられる。
「
「―――ッ!!」
倒れたハキムを気にも留めず、ランツェは冷たい声を范に投げかけた――范は何かに気づいたように目を見開き、恥じ入るように唇を噛む――
そして去り際、ランツェは槍を収めながら誰にともなく呟いた。
「―――それに、女の顔に容易く傷をつけようとする卑賤の輩、この船に相応しくない」
「〜〜〜!!わ、私は女を捨てたんだ!!二度とそんな口を――ッ!!」
火がついたように叫びながら立ち上がった范の足は、しかし誰かに払われ――“彼女”もその身を不本意ながら甲板に打ちつけることになってしまった。
「――だったら少しは自覚して、腕を磨くことだな」
今の実力では、お前はただの“女”で“足手纏い”だってことだろ―――
どこからともなく現れ范の足を払ったロートは、持ち場に戻る旨を視線で合図してきたランツェに相槌を打ちながら范に蔑視を向けた――
その言葉に范は言葉を失い、悔しそうに頭を垂れる。
片やハキムは打ちつけられた額から脳が痺れる感覚から逃れることができず、甲板に縫い付けられたままだった。
「――大丈夫か?いい勉強になったろ?」
浅く息を吐きながら脂汗を掻くハキムに陽気な声をかけながら覗き込んできたのは、ファルケだった。
「
明るく言いながらファルケは仲間達から小銭や紙幣を受け取っている――青い空を仰いだまま、ハキムは呆然と掠れた声をだした。
「“女”って……誰、が……」
「十日もアンタが“気づかない”とは、予想外でよ。儲けたのは……レーヴェのおっさんとお頭と……あと数人だな!」
アンタ、腕は立つようだが、鈍い面もあるんだなぁ?――
賭けの金を片手に手を貸してきたファルケの手をやっとのことで取りながら、ハキムはまだ痛む頭で范のこれまでの言動を反芻し――
彼の中で何かが弾けたこのときだった。
そしてハキムは頭痛を忘れ――暗い貌をしながら散らばる暗器を集めていた范の元へ駆け寄ると至極真面目な表情で“彼女”の手を取って云った――
「 俺の女になれ 」
―― 一瞬の間の後、ハキムの頬を范の拳が捉え、仲間達の爆笑が甲板を飾った。
あんなに痛い拳を受けたのは、逆に初めてだったような気がする……――
シリウスの女性メンバーは船医のヘヴンだけと聞いていた背景もあったが――あの頃の自分は何故気づかなかったのだろう。自分は范の黒衣の下の肌を知らない――戯れに頬や手に触れれば、遠慮なく鉄拳が飛んでくる。力づくで自分のモノにしようとすれば、アイツは舌を噛んで死ぬだろう。けれど、日増しに欲しくなる
固まった蝋の朱の色に染まったリンの震える身体に戯れに指を辿らせながら、彼女の綺麗に脱毛された秘洞に辿りついた――指を潜らせると、そこはしっとりと湿り絡みついてくる。
「恐くて痛くても感じるんだ?」
「――!!ん〜〜!!」
そんなハキムの言葉にリンは首を振って懸命に否定する――
しかし彼は片手で彼女の左脚を持ち上げるともう一度燭台を手にとり、彼女の秘部に近づけた。
「〜〜!?」
ハキムの意図を察し、リンは自由にならない身体で必死に抵抗したが、蝋の熱ですっかり体力を奪われた彼女は碌に動けない。怯えた視線と涙でヤメテと懇願するように訴えても、ハキムは薄く笑いリンの恐怖に歪む視線を見つめたままゆっくりと蝋燭を傾けた――
「――――い゛ぁぁぁ!!」
ジュッという嫌な音と脳天を貫くような熱が彼女の最も敏感な秘芽を抉るように襲い――
彼女の眼は焦点が定まらず大きく見開かれ、紅く染まった肢体がガクガクと大きく小さく痙攣すると、その小さな頭は事切れたようにガクリと力を失った―――
「………ん……――ッ――!!」
気がつきゆっくりと視覚と意識が浮上すると――視界は黒で覆われていて、目隠しをされているという事実に気がつくまで暫くかかった。
もう猿轡はされていないので呼吸は意識を失う前よりも楽になった気がする――背中にベッドの感触を感じ、全身にも徐々に感覚が戻ってくる――自分の躰は激しく揺さぶられていて、硬い何かが躰の中で内側から擦るように暴れている――両手は相変わらず自由を奪われたままで、下肢からは体液が混じりあう卑猥な音が聞こえてきて……――
「ハ……キム、さん………?――ッ……!」
「あぁ、眼が覚めた?」
躰を穿たれ犯される衝撃と感覚にリンは一気に覚醒を促されたが、下肢からハキムの雄に征服される淫猥な熱にまた思考が熔かされる。もう四肢も躰も、自分のものではないかのように動かない――しかしこんな無反応な躰でも弄ばれ、お客のなすがままに躰を欲望の捌け口にされているだけという事実が――仕事柄誰よりも分かっているはずなのに――今日は無性に悲しかった。
やがて彼女の下肢の奥に放たれた男の白濁の熱の感触も、今日はやけに酷に彼女の心を締めつける。
「リン――?どうした?泣いているのかい……?」
「――ッ……違……!!」
痛くはないだろ?――そう言われながらいつの間にか涙に濡れていた目隠しを急に外され、リンは眩しさに眼を細めた。
ハキムの口元は相変わらず笑っているが、今のそれは今日見たどの微笑みよりも優しいような気がした。
「………?」
「ん?」
リンの涙を拭いながら、ハキムは彼女の顔を覗き込み――憔悴しきった彼女の顔に頬を寄せながらその小さな躰を抱きしめた。
「君はとても温かいね――」
「……ハキム、さん?」
リンの躰の上で力を抜いたハキムの褐色の肌がリンの白い肌に触れ――彼女は今宵初めて彼の体温を意識した。
よく鍛えられた彼の身体の熱は、蝋燭の熱よりも――ちゃんと柔らかく、温かい。リンの身体を抱きしめながら、ハキムは彼女の髪に顔を埋めながら小さな欠伸混じりに呟いた。
「あとでちゃんと……蝋は落としてあげるから……」
「え……」
暫く、このままで………――
まるでお気に入りのぬいぐるみを抱いて眠る子供のように、彼はリンを強く抱きしめながら眠りに落ちる――
リンは暫く目を瞬かせていたが、やがて諦めたかのように彼女も躰の力を抜き目を瞑った。
「……ダメ、ですよ……ハキムさん……」
あぁ、でも――この館を訪れる度に強くなる彼の狂気は、
きっと、いつか自分の向こう側にいるその想い人に向かうだろう……――
その前に私が壊されちゃうかも――
規則正しく寝息を立てるハキムの胸に頬を寄せながら、リンは小さな悩み事のようにそんなことを考えた。
毎度彼には泣かされ喘がされ痛みも恐怖も感じさせられるのに――来れば受け入れてしまう自分に苦笑しながらリンも睡魔に身を委ねる。
すっかり冷えて固まってしまった躰に張りつく蝋の感触にくすぐったさを感じながら、
眼が覚めたら彼に少し文句を言っても罰はあたらないだろうと――
リンはその口元に小さな笑みをつくり、ハキムの肌の匂いを吸いこんだ。
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