【3】

      胸の痛みを一晩中抱え、眠れぬまま夜が明けた。
      遠くでパラパラという音が聞こえる。
  
      -思ったより早かったな、仲介屋。だがヘリで落ちたというのにまたヘリで帰れというのか、馬鹿が。

      腹の中で苛立ちをぶつけていると、ヘリが目の前に迫り、短いホバリングの後、広い砂浜に上手に着地した。
      すぐに救急隊員らしき人々が数人降りてきて、砂浜に横たわっている依頼主とパイロットの方へ飛んでいった。
      ヘヴンはヘリの風に舞う髪をまとめながら士度の方へやってくる。


      「途中でヘリの残骸を見たわ!あんな状況でよく三人とも助かったわね!」


      ヘリのプロペラ音を避けるように高く、よく響く声が士度に届いた。


      「・・・こんなところで死ねるかよ。」


      士度が呟いた言葉を、ヘヴンは唇を読むことで理解したようだ。


      「マドカちゃんが待ってるもんねv」


      士度はウルセーと返すと、依頼主とパイロットの二人が救急隊員に運ばれてヘリに乗り込むのを確認し、
      自らも自力で乗り込んだ。


      全速で東京に向かうヘリの揺れは相当なものだ。


      「なぁ、もうちょっと静かに飛んでくれないか・・・」


      その短いリクエストに、乗り合わせた者達の視線が一同に士度に集中した。


      「ヘリ酔いでも・・・?・・・!!ちょっと士度クン!顔が真っ青よ!」


      「肋骨が何本か折れてんだよ!」


      絞りだすように言った士度の言葉に、その場にいた者全てがギョッとする。
      急に慌しくなる機内を感じながら、士度はゆっくりと気を失った。



      



      「全治三ヶ月。」


      「三ヶ月ぅ!?肋骨折れたくらいなら三週間で治るだろ!?」


      骨に響くため、大声を出せない士度は低く唸った。


      「・・・君は肋骨を七本も折った上に肺も傷つけ、おまけに体のあちこちに打撲傷を負っているんだぞ。
       ヘリの墜落から生還しただけでも奇跡なんじゃ。その程度の期間ジッとしておれ!」


      呆れたように医師がため息をつく。


      「・・・そんなに寝てられっかよ・・・。」士度が小声で悪態をつくと、


      「寝ていて下さい!!」とそれまで黙って二人のやり取りを聞いていたマドカが叫ぶように言った。

      目にはうっすら涙さえ浮かべている。


      「治りきらないのにまた無茶をして、士度さんがまたこんな大怪我をしたりしたら私・・・」


      マドカはハンカチを目にあてながら訴える。
      士度はその光景に絶句して二の句が告げない。


      「・・・今日は検査入院ということで。お嬢さんの希望で明日からは自宅治療ということじゃから
       往診でいいんじゃな?」

      この場合ちょっと割高になるがのお、と何気なく医者は付け足した。


      「はい、宜しくお願いします。」

      「・・・おい。」士度の知らぬところですでに話はまとまっているようだ。


      「今夜彼は熱をだすかもしれん。大変じゃろうがお嬢さん、気をつけてやったってくれ。」
 
      「わかりました。どうもありがとうございました。」


      あまりこのお嬢さんを泣かすような無茶はしなさんな、と言い残して席を立つ老医を、
      マドカは深深と頭を下げて個室から送り出した。

      パタン、と扉が閉まると、士度はきまりが悪そうに呟く。

      「自宅治療なんてわざわざ金がかかること・・・」

      「お金のことなんて、どうにでもなるんです。」

      士度の言葉を遮るようにマドカはキッパリと言った。


      「・・・こんな、無機質な感じがする所に士度さんを閉じ込めておくことが、嫌なんです・・・」


      私の我儘なんです・・・とベッド脇のスツールに腰掛けながらマドカは言った。


      「ダメ、ですか?」

      「別にダメじゃないけどよ・・・」

      士度の煮え切らない言葉にも、「よかった・・・」とマドカはため息をつきながら答えると、

      「ほんとうに・・・無事でよかった・・・」と言い、士度の手を両手で包み、握り締めた。

      そうやって静かに涙を流すマドカにかける言葉を、士度は一人懸命探していた。