「女、宛がった次は、
青年の、怒気を孕んだ静かな声を、四木族の長たちは顔色一つ変えずに聴いていた。
「お主の気持ち、分からぬわけではないのだ。しかし、今は時期が時期だけにの・・・・聞き分けてくれ。」
秋木の長がその青年に向かって諌めるようにいった。
「薫流は劉邦に懐いている。若い連中の間で約束事が必要なら、ヤツでもいいじゃないか。」
青年は挑むような眼で秋木の長を見た。
「いろいろと、訳があるのだよ・・・・冬木の若いの。」
夏木の長が、静かに言った。青年の顔はまだ不満そうだ。
「
兎の耳がついている帽子を被った童女が、隣にいる父を見上げながら訊ねた。
「・・・・お前と、冬木の長の子が将来、
「オイ!まだ勝手に決めるなよ!」
「士度と私が、番?どういうことだ、父様?」
「一生涯をずっと共に、過ごすということだ・・・・。お前と、冬木の長の子が。」
「私と、士度がか?」
「嫌ではなかろう?」
「嫌ではないぞ、父様。」
そんな親子のやりとりを見ながら青年は短く舌打ちをし、そして徐に立ち上がり童女に手を差し伸べた。
「薫流!このあいだ、北山の熊の十郎にハチミツの取り方を教わろうって言ったよな?今からいくぞ。」
青年のその声に、童女は腰を浮かせた。そして気がついたように父の方を振り向き許可を仰ぐ。
春木の長は優しい眼差しで娘を見やり、「行ってくるがよい・・・」と静かに言った。
童女は青年の手をとり、立ち上がった。そして二人は手をとりあって集会場の出口へと向かう。
「士度・・・まだ話は終っていないぞ。」
冬木の長の声が抑揚無く響いた。
「長同士で勝手に話してりゃいいだろ・・・ガキはガキ同士でつるんでるさ。外で亜紋
と劉邦も待っているんだ。」
――大人たちのくだらねー話に付き合ってる暇はねぇんだよ。
青年はそう言い捨てると、自分と七つ歳が違う童女を促し、まだ明るい外へと出て行った。
「・・・・真っ直ぐな、良い眼をしておる。」
青年の姿が消えた戸口を見つめながら呟いた夏木の長の表情は、とても穏やかだ。
「融通が利かぬ子でな・・・ほとほと手を焼いておる。」
冬木の長は小さく溜息を吐きながら答えた。
「いや・・・あの子ならば、我等が運命を背負うに耐えられるであろう・・・。残酷なことだが・・・」
秋木の長の声は苦しげだった。
「いずれにせよ、“刻”が近いのだ。若人らには、我々が焦っているかのように映るのやもしれないがの・・・。」
春木の長の目に映った灯りが揺れていた。
「そうだ・・・。間も無く我等は死に絶え、眠り・・・若人等の時代に再び目覚め、癒される。それが
冬木の長の言葉に、他の四人の長たちも頷いた。
そして刹那、四人の長たちの思いは、“父”としての想いに変わる。
残していくであろう子供たちの行く末と、その未来を・・・・人として、親として案じ、祈るしかないのだ。
魔と鬼が、牙と爪で傷つけ合っている今、このときは・・・・たった一つの心の臓の為に、血を流し合っている間は果てなく・・・。
Fin.
士度と薫流の間には、他の人たちとは少し違う、特別な絆があると思うのです。
お互いがお互いをとても自然に、大切に思っているような。
薫流が士度を見つめるときの眼差しからそう感じました。